新着情報

最高裁平成21年3月6日第二小法廷判決 ・集民第230号209頁

2016-12-22

主文
1 原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
2 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
3 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

 

理由
上告代理人大田原俊輔の上告受理申立て理由について

1 本件は,上告人が,被上告人に対し,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引に係る弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると,過払金が発生していると主張して,不当利得返還請求権に基づき,その支払を求める事案である。被上告人は,上記不当利得返還請求権の一部については,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が完成したと主張してこれを争っている。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号により法律の題名が貸金業法と改められた。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2) 上告人は,昭和59年12月12日,被上告人との間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。
上告人と被上告人は,同日から平成18年6月8日までの間,本件基本契約に基づき,第1審判決別紙計算書の「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引を行った(以下「本件取引」という。)。
(3) 本件取引における弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものであり,本件基本契約は,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,これをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。
(4) 上告人は,平成19年2月2日に本件訴えを提起した。過払金充当合意に基づき,本件取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当した結果は,第1審判決別紙計算書記載のとおりであり,同日における過払金は404万9856円,同日までに発生した民法704条所定の利息は130万1687円である。(5) 被上告人は,平成9年2月2日以前の弁済によって発生した過払金に係る不当利得返還請求権については,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が完成していると主張して,これを援用した。

3 原審は,前記事実関係の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の請求を320万5334円及びうち245万4000円に対する平成19年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で認容すべきものとした。
消滅時効は,権利を行使することができる時から進行するものであり,過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)は,発生時点において行使することができる権利である。上告人は,本件取引の継続中であっても,自ら弁済を停止し,取引履歴の開示を請求するなどして,本件取引により発生した過払金返還請求権を行使することが可能であったから,権利の行使につき法律上の障害は存在しない。
したがって,平成9年2月2日以前の弁済により発生した過払金に係る過払金返還請求権については,発生から10年間の経過により,消滅時効が完成した。平成9年2月3日以降の弁済により発生した過払金は,原判決別紙計算書記載のとおり245万4000円であり,これに対する平成19年2月2日までに発生した民法704条所定の利息は75万1334円である。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
前記のような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金返還請求権を行使することは通常想定されていないものというべきである。したがって,一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,これにより過払金返還請求権の行使が妨げられていると解するのが相当である。
借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存在する過払金を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから,そのように解することはできない(最高裁平成17年(受)第844号同19年4月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1073頁,最高裁平成17年(受)第1519号同19年6月7日第一小法廷判決・裁判集民事224号479頁参照)。
したがって,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成20年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決・裁判所時報1476号2頁参照)。

5 これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,本件基本契約は過払金充当合意を含むものであり,本件において前記特段の事情があったことはうかがわれないから,本件取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は本件取引が終了した時点から進行するというべきである。そして,前記事実関係によれば,本件取引がされていたのは昭和59年12月12日から平成18年6月8日までであったというのであるから,上記消滅時効期間が経過する前に本件訴えが提起されたことは明らかであり,上記消滅時効は完成していない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。以上説示したところによれば,上記消滅時効の成立を否定し上告人の請求を認容した第1審判決の結論は正当であるから,同部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官古田佑紀 裁判官今井功 裁判官中川了滋)

 

 

司法書士にじいろ法務事務所|債務整理(借金、多重債務、過払金、自己破産、個人再生など)

債務整理・過払い請求のご相談はこちらをクリックしてください⇒「HOME」へ

 最高裁 平成18年1月24日第三小法廷・集民第219号243頁

2016-12-20

主     文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
理     由
第1 事案の概要

1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む貸金業者であり,平成12年法律第112号による改正前の出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律(昭和58年法律第33号)附則(以下「出資法附則」という。)9項所定の業務の方法による貸金業のみを行う日賦貸金業者である。
(2)被上告人は,利息年109.5%,支払期日に約定の元本及び利息の支払を1回でも怠ったときは,当然に期限の利益を失い,直ちに残元本全部と利息,損害金を支払うとの条項(以下「本件期限の利益喪失条項」という。)を含む約定で,①~⑩のとおり,上告人A1に金銭を貸し付け,また,⑪~⑯のとおり,同上告人が代表者を務める上告人有限会社A2(以下「上告会社」という。)に金銭を貸し付けた(以下,これらの貸付けを,番号に従い,「本件①貸付け」などといい,「本件各貸付け」と総称する。)。本件②貸付けは,本件①貸付けの約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに契約が締結されたものであり,また,本件③~⑩貸付けについても,同様に,その直前の貸付けの約定の返済期間の途中で,貸増しが行われたものである。本件⑪~⑯貸付けについても,本件①~⑩貸付けと同じ方法で貸付けが行われたものである。
① 平成 8年 7月 1日  50万円
② 平成 8年10月24日  50万円
③ 平成 9年 1月29日  50万円
④ 平成 9年 5月28日  50万円
⑤ 平成 9年 9月 3日  50万円
⑥ 平成 9年12月 1日  50万円
⑦ 平成10年 2月28日  50万円
⑧ 平成10年 6月 3日  50万円
⑨ 平成10年 9月 2日  50万円
⑩ 平成10年12月24日  50万円
⑪ 平成11年 5月31日  50万円
⑫ 平成11年 9月14日  50万円
⑬ 平成11年12月29日  50万円
⑭ 平成12年 4月 7日  60万円
⑮ 平成12年 6月26日  60万円
⑯ 平成12年 9月22日  60万円
(3)被上告人は,上告人らに対し,本件各貸付けに際し,借用証書の写しをそれぞれ交付したところ,本件②~⑩,⑫,⑬貸付けの各借用証書には,「契約手渡金額」欄があり,同欄の下部には,「上記のとおり借用し本日この金員を受領しました。」との記載があるにもかかわらず,上記「契約手渡金額」欄には,上記各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付けの残元本の金額との合計金額が記載されていた。
(4)また,本件①~⑪貸付けにおいては,日曜日,第2土曜日,第3土曜日,国民の祝日,年末年始休暇(毎年12月31日から翌年1月5日までの6日間)及び夏期休暇(毎年8月13日から同月17日までの5日間)には,集金をしない旨の合意があったにもかかわらず(以下,集金をしない旨の合意のある日のことを「集金休日」という。),本件①~⑦貸付けの各借用証書には,集金休日の記載はなく,また,本件⑧~⑪貸付けの各借用証書には,日曜日,第2土曜日,第3土曜日,国民の祝日及び「その他取引をなさない慣習のある休日」を集金休日とする旨の記載がされていた。
(5)被上告人は,上告人A1から,平成10年12月24日,本件⑨貸付けの弁済として,3257円を受領したにもかかわらず,被上告人が同上告人に交付した同日付けの領収書には,受領金額が2303円と記載されていた。
(6)本件②貸付けについては,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに本件③貸付けに係る契約が締結され,本件②貸付けに係る債務が消滅したために,同債務については,返済期間が100日未満となったものであり,また,本件④~⑧,⑭,⑮貸付けについても,同様に,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たにその直後の貸付けに係る契約が締結され,旧債務が消滅したために,旧債務については,返済期間が100日未満となったものである。
(7)本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により取り立てる日数が,返済期間の全日数の100分の70以上と定められていたところ,実際の貸付けにおいては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったが,返済のされなかった日を除けば,返済期間の全日数の100分の70未満であった。
(8)上告人A1は,被上告人に対し,本件①~⑩貸付けの弁済として,第1審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に,「支払額」欄記載の各金銭を支払い,また,上告会社は,被上告人に対し,本件⑪~⑯貸付けの弁済として,同判決別紙3の「年月日」欄記載の各年月日に,「支払額」欄記載の各金銭を支払った(以下,これらの支払を「本件各弁済」と総称する。)。

2 本件は,上告人らが,被上告人に対し,本件各弁済のとおり支払われた利息等のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超える部分(以下「制限超過部分」という。)等を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を請求する事案である。

3 原審は,本件各弁済には貸金業法43条1項の規定が適用されるから,本件各貸付けの債務は残存しており,被上告人の不当利得返還債務は存在しないとして,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。

第2 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の2の点,第3の5及び6のうち貸金業法17条1項の解釈適用の誤りをいう点,第3の10の点について

1 原審は,次のとおり判断するなどして,本件各貸付けについては,貸金業法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面が交付されたものといえるとした。
(1)本件②~⑩,⑫,⑬貸付けの各借用証書の「契約手渡金額」欄には,各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付金の残元本の金額との合計金額が記載されているが,借用証書には,別途,従前の貸付けの残高が記載されているのであるから,これらの借用証書であっても,貸金業法17条1項3号の「貸付けの金額」の記載要件を充足する。
(2)本件⑪貸付けの借用証書には,夏期休暇の期間を集金休日とする旨の記載が欠けているが,上記期間を集金休日とすることについては,被上告人があらかじめ上告人A1に連絡をしており,また,同上告人も,かかる取扱いについて格別の異議を述べていなかったことなどに照らすと,上記期間は,上記借用証書において集金休日とされている「その他取引をなさない慣習のある休日」に該当するものであるから,この借用証書であっても,貸金業法17条1項所定の要件を具備した書面といえる。本件①~⑩貸付けの借用証書についても同様のことがいえる。
(3)被上告人が平成10年12月24日に本件⑨貸付けの弁済を受けた際に上告人A1に交付した同日付け領収書の受領金額の記載は誤りであるが,被上告人においてあえて虚偽の金額を記載したわけではなく,また,上記誤記は上告人A1に不利益を被らせるものでもなかったのであるから,この領収書であっても,貸金業法18条1項所定の要件を具備した書面といえる。

2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)貸金業法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,制限超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた貸金業法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守したときには,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める貸金業法の趣旨,目的と,同法に上記業務規制に違反した場合の罰則が設けられていること等にかんがみると,同法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものである
貸金業法43条1項の規定の適用要件として,貸金業者は同法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)を貸付けの相手方に交付しなければならないものとされており,また,貸金業者は同法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)を弁済をした者に交付しなければならないものとされているが,17条書面及び18条書面には同法17条1項及び18条1項所定の事項のすべてが記載されていることを要するものであり,それらの一部が記載されていないときは,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない(最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁,最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。
そして,貸金業法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,17条書面を交付すべき義務を定め,また,同法18条1項が,貸金業者につき,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに,18条書面を交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容や弁済の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容や弁済の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解される。したがって,17条書面及び18条書面の貸金業法17条1項及び18条1項所定の事項の記載内容が正確でないときや明確でないときにも,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。
(2)17条書面には「貸付けの金額」を記載しなければならないが(貸金業法17条1項3号),前記事実関係によれば,本件②~⑩,⑫,⑬貸付けの各借用証書には,「契約手渡金額」欄があり,同欄の下部には,「上記のとおり借用し本日この金員を受領しました。」との記載があるにもかかわらず,上記「契約手渡金額」欄には,上記各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付金の残元本の金額との合計金額が記載されていたというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は正確でないというべきである。そうすると,これらの借用証書の写しの交付をもって,本件②~⑩,⑫,⑬貸付けについて17条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,借用証書に別途従前の貸付けの債務の残高が記載されているとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(3)17条書面には「各回の返済期日及び返済金額」を記載しなければならないが(貸金業法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)13条1項1号チ),前記事実関係によれば,本件①~⑦貸付けの各借用証書においては,集金休日の記載がされていなかったというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は正確でなく,また,本件⑧~⑪貸付けの各借用証書においては,「その他取引をなさない慣習のある休日」を集金休日とする旨の記載がされていたというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は明確でないというべきである。
そうすると,これらの借用証書の写しの交付をもって,本件①~⑪貸付けについて17条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,これらの借用証書に記載されていない期日を集金休日とすることについて,被上告人があらかじめ上告人らに連絡しており,上告人らがかかる取扱いについて格別の異議を述べていなかったとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(4)18条書面には「受領金額及びその利息,賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額」を記載しなければならないが(貸金業法18条1項4号),前記事実関係によれば,被上告人が本件⑨貸付けの弁済を平成10年12月24日に受けた際に上告人A1に対して交付した同日付けの領収書においては,受領金額の記載が誤っていたというのであるから,この領収書の上記事項の記載内容は正確でないというべきである。そうすると,この領収書の交付をもって,本件⑨貸付けの平成10年12月24日の弁済について18条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,被上告人においてあえて虚偽の金額を記載したわけではなく,また,上記誤記が上告人A1に不利益を被らせるものでなかったとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

3 以上によれば,上記の諸点についての論旨はいずれも理由があり,原判決は破棄を免れない。

第3 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の12及び13のうち貸金業法17条1項の解釈適用の誤りをいう点について

後記第4の2(2)のとおり,本件期限の利益喪失条項のうち,上告人らが支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は無効であり,上告人らは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
しかしながら,前記のとおり,貸金業法17条1項が,貸金業者に17条書面の交付義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあるのであるから,同項及びその委任に基づき定められた施行規則13条1項は,飽くまでも当事者が合意した内容を正確に記載することを要求しているものと解するのが相当であり,このことは,当該合意が法律の解釈適用によって無効又は一部無効となる場合であっても左右されるものではないと解される。
そうすると,上告人らと被上告人が合意した期限の利益喪失条項の内容を正確に記載している本件各貸付けの各借用証書は,貸金業法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),施行規則13条1項1号ヌ(ただし,本件①~⑭貸付けについては,同号リ(平成12年総理府令・大蔵省令第25号による改正前のもの))所定の「期限の利益の喪失の定めがあるときは,その旨及びその内容」の記載に欠けるところはないというべきである。
論旨は採用することができない。

第4 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の12及び13のうち本件各弁済には任意性がないと主張する点について

1 原審の判断は,次のとおりである。
本件期限の利益喪失条項の存在により,上告人らが制限超過利息の支払を強制されているとは解されないし,「任意に」支払ったとは,本件各貸付けについての利息に充当されることを認識した上で,支払うか否かを自己の意思に基づいて判断することが可能なことをいうものであり,支払うこととした動機が上記条項の適用を免れるためであるか否かは,支払の任意性を左右するものではないから,本件各弁済は,任意にされたものといえる。

2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解されるものの(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照),前記のとおり,同項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものであるから,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,同項の規定の適用要件を欠くというべきである。
(2)本件期限の利益喪失条項がその文言どおりの効力を有するとすれば,上告人らは,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるが,このような結果は,上告人らに対し,期限の利益を喪失する不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができない。【要旨1】本件期限の利益喪失条項のうち,制限超過部分の利息の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,利息制限法1条1項の趣旨に反して無効であり,上告人らは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
そして,本件期限の利益喪失条項は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないものであるが,この条項の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本及び制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
したがって,【要旨2】本件期限の利益喪失条項の下で,債務者が,利息として,制限超過部分を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって支払ったものということはできないと解するのが相当である。
そうすると,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,上告人らが任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。

第5 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の4及び7の各点について

1 原審の判断は,次のとおりである。
(1)出資法附則9項2号所定の要件を具備するか否かは,契約締結時の契約内容によって判断されるべきであると解されるところ,本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたのであるから,上記要件を具備する。
(2)出資法附則9項3号所定の要件については,日賦貸金業者が貸付けの相手方の営業所等において自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めて,返済期間の全日数の100分の70以上であれば,具備すると解されるところ,本件各貸付けについては,いずれも,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったのであるから,上記要件を具備する。

2 しかしながら,原審の上記判断のうち,1の(2)の部分は是認することができるが,1の(1)の部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)出資法附則8項が,日賦貸金業者について出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律5条2,3項の特例を設け,一般の貸金業者よりも著しく高い利息について貸金業法43条1項の規定が適用されるものとした趣旨は,日賦貸金業者が,小規模の物品販売業者等の資金需要にこたえるものであり,100日以上の返済期間,毎日のように貸付けの相手方の営業所又は住所において集金する方法により少額の金銭を取り立てるという出資法附則9項所定の業務の方法による貸金業のみを行うものであるため,債権額に比して債権回収に必要な労力と費用が現実に極めて大きなものになるという格別の事情があるからであると考えられる。そうすると,日賦貸金業者について貸金業法43条1項の規定が適用されるためには,契約締結時の契約内容において出資法附則9項所定の各要件が充足されている必要があることはもとより,実際の貸付けにおいても上記各要件が現実に充足されている必要があると解するのが相当である。
(2)前記事実関係によれば,本件②貸付けについては,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに本件③貸付けに係る契約が締結され,本件②貸付けに係る債務が消滅したために,同債務については,返済期間が100日未満となったものであり,また,本件④~⑧,⑭,⑮貸付けについても,同様に,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たにその直後の貸付けに係る契約が締結され,旧債務が消滅したために,旧債務については,返済期間が100日未満となったというのである。そうすると,本件②,④~⑧,⑭,⑮貸付けについては,契約締結時の契約内容においては出資法附則9項2号所定の要件が充足されていたが,実際の貸付けにおいては上記要件が現実に充足されていなかったのであるから,貸金業法43条1項の規定の適用はない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
(3)これに対し,前記事実関係によれば,本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てる日数が,返済期間の全日数の100分の70以上と定められており,実際の貸付けにおいても,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったというのである。そして,出資法附則9項3号の文理に照らすと,日賦貸金業者が貸付けの相手方の営業所等において自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めて,返済期間の全日数の100分の70以上であれば,実際の貸付けにおいて同号所定の要件が現実に充足されているといえると解すべきである。そうすると,本件各貸付けについては,契約締結時の契約内容において出資法附則9項3号所定の要件が充足されていることはもとより,実際の貸付けにおいても上記要件が現実に充足されていたといえるのであるから,この点において貸金業法43条1項の規定の適用が否定されるものではない。これと同旨の原審の判断は是認することがで
きる。この点に関する論旨は採用することができない。

第6 結論
以上のとおりであるから,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,判示第4につき裁判官上田豊三の意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

判示第4についての裁判官上田豊三の意見は,次のとおりである。

私は,上告人らが本件各弁済を任意にしたものであるとする原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反はないと考える。その理由は次のとおりである。

1 利息制限法所定の制限利率を超える利息の支払約定は,その制限超過部分については無効であり,債務者が制限超過部分を含む約定どおりの利息を任意に支払った場合でも,制限超過部分は残元本に充当され,計算上元本が完済された後に支払われた金銭は原則として返還請求をすることができるというのが,かつて累次の最高裁判例によって確立された判例理論であった。
しかるに,昭和58年に貸金業法が制定され,上記判例理論が一部修正されることになった。すなわち,同法は,貸金業を営む者について登録制度を実施し,その事業に対し必要な規制を行うとともに,貸金業者の業務の適正な運営を確保し,もって資金需要者等の利益の保護を図り,国民経済の適切な運営に資することを目的として制定されたものであるが,同法43条1項は,貸金業者が厳格な業務規制である17条書面及び18条書面の交付義務を遵守することの見返りとして,任意に支払われた制限超過部分につき,有効な利息債務の弁済とみなし,制限超過部分に元本充当の効果を生じさせないこととし,その返還請求をすることができないものしたのである。

2 同法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によって支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)。
利息債務の弁済が強制執行や競売により実現される場合には,それは「債務者の意思による」支払とはいえないので,同法43条1項にいう任意性を否定すべきである。また,詐欺や強迫に基づいて利息債務の弁済が行われたり,あるいはその弁済が同法21条で禁止している債権者等の取立行為に起因する場合には,債務者の利息弁済の意思の形成には瑕疵があり,その弁済は債務者の「自由な」意思に基づく支払とはいえないので,同様に任意性を否定すべきである。
これに対し,約定の元本のほかに約定の利息(それには制限超過部分が含まれている。)を支払わなければ元本についての期限の利益を失うという,期限の利益喪失条項がある場合において,債務者が約定利息を支払っても,そのことだけでその支払の任意性が否定されるものではないと解するのが相当である。このような場合に債務者が約定利息を支払う動機には様々なものがあり,約束をしたのでそれを守るという場合もあるであろうし,あるいは約定利息を支払わなければ期限の利益を失い,残元本全額と経過利息を直ちに一括して支払わなければならなくなると認識し,そのような不利益を回避するためにやむなく支払うという場合もあろうと思われる。前者の場合には,およそ約定利息の支払に対する心理的強制を債務者に及ぼしているとはいい難い。これに対し,後者の場合には,約定利息の支払に対する心理的強制を債務者に及ぼしていることは否定することができない。しかし,このような心理的強制は,詐欺や強迫あるいは同法21条で禁止している債権者等の取立行為と同視することのできる程度の違法不当な心理的圧迫を債務者に加え,あるいは違法不当に支払を強要するものとは評価することができず,なお債務者の「自由な」意思に基づく支払というべきである。

3 多数意見は,上記の期限の利益喪失条項の下で債務者が制限超過部分を支払った場合には,特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって支払ったものということはできないと解するのであるが,そのように解することは,貸金業者が17条書面及び18条書面を交付する義務を遵守するほかに,「制限利息を超える約定利息につき,期限の利益喪失条項を締結していないこと」あるいは「元本及び制限利息の支払を怠った場合にのみ期限の利益を失う旨の条項を明記すること」という要件を,貸金業法43条1項のみなし弁済の規定を適用するための要件として要求するに等しい結果となり,同法の立法の趣旨を離れ,みなし弁済の範囲を狭くしすぎるのではないかと思われる。
さらに,そもそも,債務者が貸金業者との間に制限利息を超える約定利息の支払を約し,その約定利息につき期限の利益喪失条項のある契約を締結するのは,そうするほかには金融を得る途がないので万やむを得ないといった心理的強制にかられて締結していることが多いのではないかと思われる。そのような心理的強制にかられて締結した契約も,債務者の自己の自由な意思に基づくもの,すなわち任意性を否定することはできないものではないかと思われる。そうである以上,このような契約に基づく約定利息の支払についても,債務者の自己の自由な意思に基づくもの,すなわち任意性を否定することはできないものではないかと思われる。

4 本件において,上告人らが本件各弁済をしたのは,約定利息につき期限の利益喪失条項のある下でしたものではあるが,詐欺や強迫あるいは同法21条で禁止している取立行為に基づいてしたものであることをうかがわせる事情は認められないので,本件各弁済は,上告人らが約定利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってしたもの,すなわち上告人らが利息として任意に支払ったものというべきである。したがって,これと同旨の原審の判断は正当であり,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反はないと考える。

(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠
幸男)

 

 

司法書士にじいろ法務事務所|債務整理(借金、多重債務、過払金、自己破産、個人再生など)

債務整理・過払い請求のご相談はこちらをクリックしてください⇒「HOME」へ

専門職への相談は解決への第一歩です。

最高裁平成21年7月14日第三小法廷判決・集民第231号357頁

2016-12-18

主文
1 原判決中,不当利得返還請求についての上告人の控訴を棄却した部分を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を却下する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由
上告代理人山田有宏ほかの上告受理申立て理由第3について
1 本件は,被上告人らが,それぞれ,貸金業者である上告人に対し,上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しており,かつ,上告人は過払金の取得が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき過払金及び民法704条前段所定の利息(以下「法定利息」という。)の支払等を求める事案である。

2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律。以下,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2) 上告人は,ア被上告人X に対し,第1審判1 決別紙「法定金利計算書1」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成7年9月18日から平成16年11月17日までの間に15回にわたって,イ被上告人X に対し,第1審判2 決別紙「法定金利計算書2」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成7年7月5日から平成15年1月6日までの間に16回にわたって,ウ被上告人X3に対し,第1審判決別紙「法定金利計算書3」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成8年2月5日から平成16年9月3日までの間に17回にわたって,エ被上告人X4に対し,第1審判決別紙「法定金利計算書4」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成8年1月4日から平成18年1月10日までの間に21回にわたって,オ被上告人X5に対し,第1審判決別紙「法定金利計算書5」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成8年1月9日から平成18年2月2日までの間に20回にわたって,カ被上告人X6に対し,第1審判決別紙「法定金利計算書6」の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成7年2月24日から平成18年2月14日までの間に14回にわたって,それぞれ金員を貸し付けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。
本件各貸付けにおいては,① 元本及び利息制限法1条1項所定の制限を超える利率の利息を指定された回数に応じて毎月同額を分割して返済する方法(いわゆる元利均等分割返済方式)によって返済する,② 被上告人らは,約定の分割金の支払を1回でも怠ったときには,当然に期限の利益を失い,上告人に対して直ちに債務の全額を支払う(以下「本件特約」という。)との約定が付されていた。
(3) 本件各貸付けに係る債務の弁済として,ア被上告人X は,第1審判決別1 紙「法定金利計算書1」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成7年10月13日から平成17年10月17日までの間,イ被上告人X2は,第1審判決別紙「法定金利計算書2」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成7年8月3日から平成15年4月1日までの間,ウ被上告人X3は,第1審判決別紙「法定金利計算書3」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成8年3月5日から平成16年11月2日までの間,エ被上告人X4は,第1審判決別紙「法定金利計算書4」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成8年2月5日から平成18年1月10日までの間,オ被上告人X5は,第1審判決別紙「法定金利計算書5」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成8年2月6日から平成18年2月2日までの間,カ被上告人X6は,第1審判決別紙「法定金利計算書6」の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成7年3月25日から平成18年3月13日までの間,それぞれ上告人に金員を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。

3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断した上,第1審判決別紙「法定金利計算書1」ないし「法定金利計算書6」のとおり,制限超過部分が貸付金の元本に充当されることにより発生した過払金及びこれに対する法定利息がその後の貸付けに係る借入金債務に充当され,その結果,被上告人X1,同X2,同X3及び同X6については,最終の取引日の時点で過払金及び法定利息が,被上告人X4及び同X5については,最終の取引日の時点で過払金が,それぞれ存するとして,それらの過払金及び法定利息の合計額(被上告人X4及び同X5については過払金)並びに過払金に対する最終の取引日の翌日から支払済みまでの法定利息の支払を求める限度で,各被上告人の上告人に対する不当利得返還請求を認容すべきものとした。
(1) 最高裁平成16年(受)第1518号同18年1月13日第二小法廷判決・民集60巻1号1頁(以下「平成18年判決」という。)は,債務者が利息制限法1条1項所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約(以下「期限の利益喪失特約」という。)の下で制限超過部分を支払った場合,その支払は原則として貸金業法43条1項(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできない旨判示している。また,最高裁平成17年(受)第1970号同19年7月13日第二小法廷判決・民集61巻5号1980頁(以下「平成19年判決」という。)は,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情(以下「平成19年判決の判示する特段の事情」という。)があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される旨判示している。
(2)ア本件各弁済は,期限の利益喪失特約である本件特約の下でされたものであって,平成18年判決によれば,いずれも貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできないから,同項の規定の適用要件を欠き,制限超過部分の支払は有効な利息債務の弁済とはみなされない。
イそして,平成18年判決の言渡し前において,上告人が,本件期限の利益喪失特約があっても制限超過部分の支払につき同項の適用があるとの認識を有していたとしても,当時,そのような認識に一致する裁判例や学説が一般的であったとはいえないから,上告人において,本件各弁済に係る制限超過部分の支払につき同項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるということはできず,上告人は過払金の取得について民法704条の「悪意の受益者」であると認められる。

4 しかしながら,原審の上記3(2)のアの判断は是認することができるが,同イの判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 平成18年判決及び平成19年判決の内容は原審の判示するとおりであるが,平成18年判決が言い渡されるまでは,平成18年判決が示した期限の利益喪失特約の下での制限超過部分の支払(以下「期限の利益喪失特約下の支払」という。)は原則として貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできないとの見解を採用した最高裁判所の判例はなく,下級審の裁判例や学説においては,このような見解を採用するものは少数であり,大多数が,期限の利益喪失特約下の支払というだけではその支払の任意性を否定することはできないとの見解に立って,同項の規定の適用要件の解釈を行っていたことは,公知の事実である。平成18年判決と同旨の判断を示した最高裁平成16年(受)第424号同18年1月24日第三小法廷判決・裁判集民事219号243頁においても,上記大多数の見解と同旨の個別意見が付されている。
そうすると,上記事情の下では,平成18年判決が言い渡されるまでは,貸金業者において,期限の利益喪失特約下の支払であることから直ちに同項の適用が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,貸金業者が上記認識を有していたことについては,平成19年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。したがって,平成18年判決の言渡し日以前の期限の利益喪失特約下の支払については,これを受領したことのみを理由として当該貸金業者を悪意の受益者であると推定することはできない(最高裁平成20年(受)第1728号同21年7月10日第二小法廷判決・裁判所時報1487号登載予定参照)。
(2) これを本件についてみると,平成18年判決の言渡し日以前の被上告人らの制限超過部分の支払については,期限の利益喪失特約下の支払であるため,支払の任意性の点で貸金業法43条1項の適用要件を欠き,有効な利息債務の弁済とはみなされないことになるが,上告人がこれを受領しても,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけでは悪意の受益者とは認められないのであるから,制限超過部分の支払について,それ以外の同項の適用要件の充足の有無,充足しない適用要件がある場合は,その適用要件との関係で上告人が悪意の受益者であると推定されるか否か等について検討しなければ,上告人が悪意の受益者であるか否かの判断ができないものというべきである。しかるに,原審は,上記のような検討をすることなく,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけで平成18年判決の言渡し日以前の被上告人らの支払について上告人を悪意の受益者と認めたものであるから,原審のこの判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中,不当利得返還請求についての上告人の控訴を棄却した部分は破棄を免れない。そこで,前記検討を必要とする点等につき更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
なお,上告人は,取引履歴の開示拒絶の不法行為に基づく損害賠償請求に関する部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官近藤崇晴 裁判官藤田宙靖 裁判官堀籠幸男 裁判官那須弘平 裁判官田原睦夫)

 

 

司法書士にじいろ法務事務所|債務整理(借金、多重債務、過払金、自己破産、個人再生など)

債務整理・過払い請求のご相談はこちらをクリックしてください⇒「HOME」へ

 最高裁平成11年1月21日第一小法廷判決・民集第53巻1号98頁

2016-12-16

主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理    由

上告代理人松原徳満の上告理由第一について
貸金業者との間の金銭消費貸借上の利息の契約に基づき、債務者が利息として任意に支払った金銭の額が、利息制限法一条一項に定める制限額を超える場合において、右超過部分の支払が貸金業の規制等に関する法律四三条一項によって有効な利息の債務の弁済とみなされるためには、右の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされたときであっても、特段の事情のない限り、貸金業者は、右の払込みを受けたことを確認した都度、直ちに、同法一八条一項に規定する書面(以下「受取証書」という。)を債務者に交付しなければならないと解するのが相当である。けだし、同法四三条一項二号は、受取証書の交付について何らの除外事由を設けておらず、また、債務者は、受取証書の交付を受けることによって、払い込んだ金銭の利息、元本等への充当関係を初めて具体的に把握することができるからである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第二について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官    藤   井   正   雄
裁判官    小   野   幹   雄
裁判官    遠   藤   光   男
裁判官    井   嶋   一   友
裁判官    大   出   峻   郎

 

 

司法書士にじいろ法務事務所|債務整理(借金、多重債務、過払金、自己破産、個人再生など)

債務整理・過払い請求のご相談はこちらをクリックしてください⇒「HOME」へ

専門職への相談は解決への第一歩です。

最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決・民集第57巻7号895頁(対ロプロ)

2016-12-14

主     文

1 平成13年 (受)第1032号上告人の上告を棄却する。
2 原判決中,平成13年(受)第1033号上告人らの敗訴部分を破棄し,同部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
3 第1項に関する上告費用は,平成13年(受)第1032号上告人の負担とする。

 

理     由

第1 事案の概要

1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。
(1) 株式会社D技研(以下「D技研」という。)は,中小企業等への金員の貸付けを業とする平成13年(受)第1032号上告人・同第1033号被上告人(以下「1審被告」という。)との間で,平成5年6月11日付けの手形貸付取引約定及び同月14日付けの基本取引約定により,次の内容の継続的貸付契約(以下「本件貸付契約」という。)を締結した。
ア 元本極度額 3000万円
イ 特約 D技研振出しの手形が不渡りとなったときは,D技研は,1審被告に 対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失する。
(2) 平成13年(受)第1032号被上告人・同第1033号上告人A1(以下「1審原告A1」という。)は平成9年8月5日,同A2(以下「1審原告A2」という。)は平成6年6月21日,1審被告に対し,D技研の1審被告に対する本件貸付契約に基づく債務について,それぞれ400万円の限度で連帯保証した。
(3) 1審被告は,本件貸付契約に基づき,D技研に対し,平成5年6月11日から平成10年3月24日までの間,手形貸付けの方法で,第1審判決別紙1記載のとおり,利息制限法(以下「法」という。)1条1項所定の制限利率を超える利率で反復継続して金員を貸し付け,返済を受けた(以下,上記一連の取引を「本件取引」という。)。
なお,同別紙に記載した「借入日」の「返済額」には,貸付額から天引きされた同別紙記載の1審被告に対する利息,調査料及び取立料とE保証株式会社(以下「E保証」という。)に対する保証料及び事務手数料(以下「保証料等」という。)との合計額が計上されている。
(4) 1審被告の受ける調査料及び取立料は,法3条所定のみなし利息に当たる(以下,利息とみなし利息を合わせて「利息等」という。)。
(5) 平成10年3月末,D技研振出しの手形が不渡りとなった。
(6) 1審原告A1は,1審被告に対し,上記連帯保証債務の履行として,平成10年4月9日及び同月17日に各200万円を支払った。
(7) 1審原告A2は,1審被告に対し,上記連帯保証債務の履行として,平成10年4月10日,同月14日,同月23日及び同月28日に各50万円,同年5月7日に200万円を支払った。
(8) E保証は,1審被告の貸付金取引の借主に対する信用保証を行うために,1審被告が100%出資して平成3年5月に設立した子会社であり,E保証の利益は,最終的には1審被告に帰属するということができる。E保証は,1審被告の貸付けに限って保証しており,1審被告から手形貸付けを受ける場合,E保証の保証を付けることが条件とされている。E保証の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて非常に高く,E保証の設立後,1審被告は貸付利率の引下げ等を行ったが,E保証の受ける保証料等の割合と1審被告の受ける利息等の割合との合計はE保証を設立する以前に1審被告が受けていた利息等の割合とほぼ同程度であった。E保証は,1審被告の借主との間の保証委託契約の締結業務及び保証料徴収業務を1審被告に委託しており,信用調査業務についても1審被告に任せ,保証の可否の決定業務をも事実上1審被告に委託していた。
また,信用保証会社が貸付金取引の借主の債務を保証する主たる目的は,借主が返済を怠った場合,信用保証会社が貸主に対して代位弁済を行い,借主に対して求償金の回収業務を行うことにあるにもかかわらず,E保証については,債権回収業務も1審被告が相当程度代行していた。E保証は,その組織自体がこのような各業務を自ら行う体制にはなっていなかった。

2 本件は,1審原告らが,1審被告に対し,本件取引につき法所定の制限を超える利息等として支払われた部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求める事案である。

第2 平成13年(受)第1032号上告代理人滝田裕,同川戸淳一郎の上告受理申立て理由について

【要旨1】1審被告の受ける利息等とE保証の受ける保証料等の合計額が法所定の制限利率により計算した利息の額を超えていること,前記第1の1(8)記載のE保証の設立経緯,保証料等の割合,業務の内容及び実態並びにその組織の体制等によれば,1審被告は,法を潜脱し,100%子会社であるE保証に保証料等を取得させ,最終的には同社から受ける株式への配当等を通じて保証料等を自らに還流させる目的で,借主をしてE保証に対する保証委託をさせていたということができるから,E保証の受ける保証料等は,法3条所定のみなし利息に当たるというべきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

第3 平成13年(受)第1033号上告代理人松山満芳の上告受理申立て理由
について

1 原審は,1審被告とD技研は,基本取引約定及び手形貸付取引約定を取り交わし,これに基づく複数の貸付金取引を並行して行っていたのであるから,D技研がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を支払い,この制限超過部分を元本に充当した結果生じた過払金については,1審被告の貸主としての期限の利益を保護した上で他の借入金債務に充当するとすることが,1審被告とD技研の意思であると合理的に推認され,1審被告は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができると判断した。

2 しかしながら,原審の上記判断のうち,過払金が他の借入金債務に充当されるとの判断は是認することができるが,この場合に1審被告が充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができるとの判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けとその返済が繰り返される金銭消費貸借取引においては,借主は,借入れ総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられることから,弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果当該借入金債務が完済され,これに対する弁済の指定が無意味となる場合には,特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に対する弁済を指定したものと推認することができる。
また,法1条1項及び2条の規定は,金銭消費貸借上の貸主には,借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とする法所定の制限内の利息の取得のみを認め,上記各規定が適用される限りにおいては,民法136条2項ただし書の規定の適用を排除する趣旨と解すべきであるから,過払金が充当される他の借入金債務についての貸主の期限の利益は保護されるものではなく,充当されるべき元本に対する期限までの利息の発生を認めることはできないというべきである。
したがって,【要旨2】同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である。
そうすると,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決中1審原告らの敗訴部分は破棄を免れない。論旨は理由がある。

第4 結論

以上のとおりであるから,1審被告の上告は,これを棄却することとし,1審原告らの上告に基づいて,原判決中1審原告らの敗訴部分を破棄し,同部分につき,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷 玄)

 

 

司法書士にじいろ法務事務所|債務整理(借金、多重債務、過払金、自己破産、個人再生など)

債務整理・過払い請求のご相談はこちらをクリックしてください⇒「HOME」へ

専門職への相談は解決への第一歩です。

最高裁平成20年(許)第21号 平成20年7月18日第二小法廷決定・ 民集第62巻7号2013頁

2016-12-12

主文
原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を棄却する。
抗告手続の総費用は相手方の負担とする。

理由
抗告代理人西尾剛の抗告理由について
1 記録によれば,本件の経緯の概要は,次のとおりである。
(1) 抗告人は,貸金業者である相手方との間で利息制限法1条1項所定の制限利率を超える利息の約定で金銭の借入れと弁済を繰り返した結果,過払金が発生しており,かつ,相手方は過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,相手方に対し,不当利得返還請求権に基づく過払金664万3639円及び民法704条前段所定の利息の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を抗告人の住所地を管轄する大阪地方裁判所に提起した。
(2) 相手方は,抗告人の主張に係る金銭消費貸借契約の契約証書には「訴訟行為については,大阪簡易裁判所を以て専属的合意管轄裁判所とします。」との条項があり,大阪簡易裁判所を専属的管轄とする合意が成立していると主張して,民訴法16条1項に基づき,本件訴訟を大阪簡易裁判所に移送することを求める申立てをした。
(3) これに対し,抗告人は,上記専属的管轄の合意の成立及び効力を争った上,本件訴訟においては期限の利益の喪失の有無及び悪意を否定する特段の事情の有無等が争点となることが予想されるから,地方裁判所において審理及び裁判をするのが相当であると主張した。

2 原々審は,相手方主張の専属的管轄の合意の成立及びその効力が過払金の返還等を求める本件訴訟にも及ぶことを認めた上で,本件訴訟が,その訴額において簡易裁判所の事物管轄に属する訴額をはるかに超えるものであり,その判断にも相当の困難を伴うものであること等を理由に,本件訴訟は,民訴法16条2項本文の適用に当たり地方裁判所において自ら審理及び裁判をする(以下「自庁処理」という。)のが相当と認められるものであるから,相手方の移送申立ては理由がないとして,これを却下する旨の決定をした。
原審は,専属的管轄の合意により簡易裁判所に専属的管轄が生ずる場合に地方裁判所において自庁処理をするのが相当と認められるのは,上記合意に基づく専属的管轄裁判所への移送を認めることにより訴訟の著しい遅滞を招いたり当事者間の衡平を害することになる事情があるときに限られ,本件訴訟において上記事情があるとはいえないから,地方裁判所において自庁処理をするのが相当とは認められないと判断して,原々決定を取り消し,本件訴訟を大阪簡易裁判所に移送する旨の決定をした。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
民訴法16条2項の規定は,簡易裁判所が少額軽微な民事訴訟について簡易な手続により迅速に紛争を解決することを特色とする裁判所であり(裁判所法33条,民訴法270条参照),簡易裁判所判事の任命資格が判事のそれよりも緩やかである(裁判所法42条,44条,45条)ことなどを考慮して,地方裁判所において審理及び裁判を受けるという当事者の利益を重視し,地方裁判所に提起された訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属するものであっても,地方裁判所が当該事件の事案の内容に照らして地方裁判所における審理及び裁判が相当と判断したときはその判断を尊重する趣旨に基づくもので,自庁処理の相当性の判断は地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。そうすると,地方裁判所にその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する訴訟が提起され,被告から同簡易裁判所への移送の申立てがあった場合においても,当該訴訟を簡易裁判所に移送すべきか否かは,訴訟の著しい遅滞を避けるためや,当事者間の衡平を図るという観点(民訴法17条参照)からのみではなく,同法16条2項の規定の趣旨にかんがみ,広く当該事件の事案の内容に照らして地方裁判所における審理及び裁判が相当であるかどうかという観点から判断されるべきものであり,簡易裁判所への移送の申立てを却下する旨の判断は,自庁処理をする旨の判断と同じく,地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられており,裁量の逸脱,濫用と認められる特段の事情がある場合を除き,違法ということはできないというべきである。このことは,簡易裁判所の管轄が専属的管轄の合意によって生じた場合であっても異なるところはない(同法16条2項ただし書)。

4 以上によれば,原審の前記判断には裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,原々審が本件訴訟の事案の内容に照らして自庁処理を相当と認め,相手方の移送申立てを却下したのは正当であるから,原々決定に対する抗告を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官今井功 裁判官津野修 裁判官中川了滋 裁判官古田佑紀)

 

 

司法書士にじいろ法務事務所|債務整理(借金、多重債務、過払金、自己破産、個人再生など)

債務整理・過払い請求のご相談はこちらをクリックしてください⇒「HOME」へ

最高裁平成23年7月8日第二小法廷判決・ 集民第237号159頁(マルフク⇒ディック(対CFJ))

2016-12-10

主 文
1 原判決中,「93万円及びこれに対する平成21年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員」を超える金員の支払請求に関する部分を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理 由
上告代理人前田陽司,同黒澤幸恵,同二瓶ひろ子の上告受理申立て理由について

1 本件は,被上告人が,貸金業者である株式会社A及び同社からその資産を譲り受けた上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,その返還等を求める事案である。

2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,昭和63年8月19日,Aとの間で,金銭消費貸借に係る基本契約を締結し,以後,継続的に金銭の貸付けと弁済が繰り返される取引を行った。
(2) Aは,平成14年3月29日,上告人との間で,同年5月2日を契約の実行日(以下「クロージング日」という。)として,Aの消費者ローン事業に係る貸金債権等の資産(以下「譲渡対象資産」という。)を一括して上告人に売却する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結した。
(3)本件譲渡契約は,第1.3条において,上告人は,譲渡対象資産に含まれる契約に基づき生ずる義務のすべて(クロージング日後に発生し,かつ,クロージング日後に開始する期間に関するものに限る。)を承継する旨を,第1.4条において,上告人は,第1.3条に明記するものを除き,Aのいかなる義務又は債務も承継しない旨を定め,第1.4条(a)において,上告人の承継しない義務又は債務の例として,譲渡対象資産に含まれる貸金債権の発生原因たる金銭消費貸借契約上のAの義務又は債務(支払利息の返還請求権を含む。)を挙げる。
(4)被上告人は,上告人との間で,平成14年6月3日から平成20年10月27日まで,継続的に金銭の貸付けと弁済が繰り返される金銭消費貸借取引を行った。
(5) 被上告人は,被上告人とAとの間の金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務(以下「本件債務」という。)は当該取引に係る貸金債権と表裏一体のものとして上告人に承継されると主張する。

3 原審は,上記事実関係の下で,本件債務の承継の有無につき,次のとおり判断し,被上告人の請求を認容すべきものとした。
(1)本件譲渡契約は営業譲渡契約であるから,特段の事情のない限り,Aの営業に関する債権のみならず,金銭消費貸借取引に係る契約上の地位も上告人に移転したというべきである。本件において,上記特段の事情は認められず,上告人はAから本件債務も承継したといえる。
(2)上告人は,本件譲渡契約には上告人において本件債務を承継しない旨の定めがあると主張する。しかし,被上告人とAとの間で締結された金銭消費貸借取引に係る基本契約は,過払金が発生した場合にはこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むもので,貸金債権と過払金返還債務は表裏一体として密接に関連する。この場合,原則として貸金債権と過払金返還債務を別個に処分することはできず,本件譲渡契約に上記定めがあることは,被上告人の地位を左右しない。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転する,あるいは,譲受業者が上記金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務を上記譲渡の対象に含まれる貸金債権と一体のものとして当然に承継すると解することはできない(最高裁平成22年(受)第1238号,同年(オ)第1187号同23年3月22日第三小法廷判決・裁判集民事236号登載予定参照)。そして,このことは,借主と譲渡業者との間で締結された金銭消費貸借取引に係る基本契約が,過払金充当合意を含むものであったとしても異ならない。
前記事実関係によれば,本件譲渡契約において,上告人は本件債務を承継しない旨が明確に合意されているのであって,上告人は本件債務を承継せず,その支払義務を負わないというべきである。

5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,不服申立ての範囲である93万円及びこれに対する平成21年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 須藤正彦 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫 裁判官千葉勝美)

 

 

司法書士にじいろ法務事務所|債務整理(借金、多重債務、過払金、自己破産、個人再生など)

債務整理・過払い請求のご相談はこちらをクリックしてください⇒「HOME」へ

専門職への相談は解決への第一歩です。

最高裁昭和52年6月20日第二小法廷判決・民集第31巻4号449頁

2016-12-08

主    文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
右部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理    由

上告代理人加藤一芳、同原山剛三の上告理由について

原審が確定した事実は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、中小企業等協同組合法に則つて設立された信用協同組合であつて、岐阜県岐阜市、稲葉郡及び羽島郡一円を組合地区とし、右地区内に住所若しくは居所を有する者又は右地区内において事業を行う小規模の事業者等を組合員の有資格者とし、その組合員となる者には出資(一口五〇〇円)を義務づけている。
(2) 上告人は、昭和三五、六年当時岐阜市a町b丁目c番地に本店を置き、提燈、屏風を製造販売する零細ないわゆる個人会社であつた。
(3) 上告人は、昭和三五年七月一一日被上告人から手形貸付を受ける際三万五〇〇〇円を出資して被上告人の組合員となり、次いで同年八月八日手形貸付を受ける際二万円の追加出資をした。
(4) 上告人は、昭和三五年一〇月三一日被上告人から七五〇万円を、弁済期昭和三八年八月三〇日、利息日歩四銭(のちに貸付日分から日歩三銭五厘に軽減された。)、期限後の遅延損害金日歩八銭の約定で借り受ける旨の金銭消費貸借(以下「本件貸付」という。)契約を被上告人と締結したが、右貸付金から次の(イ)ないし(ル)の各金額の合計三〇五万四一五〇円を控除され、現実に交付を受けたのは四四四万五八五〇円であつた。
(イ) 本件貸付金七五〇万円に対する昭和三五年一〇月三一日から昭和三六年一月二八日までの日歩三銭五厘の割合による利息二三万六二五〇円
(ロ) 本件貸付債務の保証人の資産信用調査費等一五〇〇円
(ハ) 確定日付料三九〇円
(ニ) 公正証書作成料三一九〇円
(ホ) 印紙代九八〇円
(ヘ) 本件貸付債務担保のため訴外D所有の建物及び訴外E所有の田畑五筆に設定された根抵当権設定費用六万円
(ト) 右抵当建物に付された火災保険の一か年分の保険料一万一八四〇円
(チ) 被上告人の組合員としての一〇〇〇口の出資金五〇万円
(リ) 上告人と被上告人との間において、本件貸付にあたつて締結された契約額一四四万円(月掛金四万円)及び二一六万円(月掛金六万円)、期間各三年の二口の定期積金(以下「本件定期積金」という。)契約の一か月分の掛金小計一〇万円並びに本件貸付前に締結されていた契約額三六万円(月掛金一万五〇〇〇円)及び六〇万円(月掛金二万五〇〇〇円)の二口の定期積金の昭和三五年一〇月分の掛金小計四万円の合計一四万円(以上四口の定期積金を以下「四口の定期積金」という。)
(ヌ) 本件貸付にあたり被上告人が上告人に対し要求して契約された利率年五分一厘の定期預金二〇〇万円(以下「本件定期預金」という。)
(ル) 被上告人が本件貸付と同時に手形貸付(以下「本件別口貸付」という。)契約により上告人に貸し付けた四〇〇万円に対する昭和三五年一〇月三一日から昭和三六年三月四日までの日歩二銭の割合による利息一〇万円
(5) 本件貸付については、上告人が本件別口貸付を受け、かつ、その借受金を即時被上告人に預金することが条件となつていたので、上告人は右貸付を受けると同時にその借受金四〇〇万円をむつみ定期預金(「全国信用協同組合連合会むつみ定期預金」という名称の割増金付定期預金で、契約期間は六か月、利息は年三分六厘で期間満了日支払、割増金の総額は預金額一〇〇〇円を一口とする一〇万口につき七四万円で、その抽選及び支払は期間の途中でなされるもの、以下「本件むつみ定期預金」という。)とし、これを本件別口貸付債務の担保として被上告人に差し入れた
(6) 本件定期預金及び四口の定期積金の掛金に対しては本件貸付債務の担保として質権が設定された。
(7) 本件貸付に際し、本件貸付債務を含む上告人の被上告人に対する取引上の債務の担保として、D所有の価額約二六万円の建物及びE所有の価額約五四〇万円の田畑五筆にそれぞれ元本極度額六〇〇万円の根抵当権が設定され、また、本件貸付債務の連帯保証人D、E、F、G、H等の資産のうち右連帯保証債務の引き当てとなる主な資産は、E所有の田畑四筆(約九三万円相当)及びH所有の田畑四筆(約一二四万円相当)、動産(約二〇万円相当)であつた。
(8) 本件貸付契約において、上告人が四口の定期積金の掛金の支払を遅滞したときは、本件貸付の残債務につき期限の利益を失う旨約定されていたところ、上告人は遅くとも昭和三六年四月二五日までには右期限の利益を失つた。
(9) 被上告人は上告人に対し、昭和三六年五月一二日以降本件貸付金に対する遅延損害金のうち日歩六銭を超える部分を放棄した。
(10) 本件定期預金契約及び本件定期積金契約は昭和三七年七月三一日に解約され、右預金及び積金は本件貸付債務及び昭和三六年三月一三日付貸付の一六〇万円の債務の一部の弁済に充当された。
(11) 全国の信用協同組合において貸付を受ける組合員の出資額の貸付額に対する標準的比率は五ないし一〇パーセントであり、被上告人においても貸付額の八ないし一〇パーセントの出資を有することを貸付基準としていた。
原審は、以上の事実関係のもとにおいて、四口の定期債金の掛金合計一四万円、本件定期預金二〇〇万円及び本件むつみ定期預金四〇〇万円合計六一四万円は払戻を拘束された即時両建預金に該当するから、本件貸付及び本件別口貸付の合計一一五〇万円から右即時両建預金を控除した残額五三六万円を本件貸付における実質的な貸付額と認めるべきであり、本件貸付及び本件別口貸付の合計一一五〇万円に対する右即時両建預金六一四万円の比率は約五三・三パーセントにも達しており、また、右実質的な貸付額とこれにつき支払われることとなる実質的な貸付利息(契約上の貸付利息から即時両建預金の利息を控除したもの)の割合(実質的な貸付額に対する実質的な利息の割合を以下「実質金利」という。)は、年約一割七分六厘となり、利息制限法所定の最高利率年一割五分を約二分六厘上回るものであるとしたうえ、本件貸付契約は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)二条七項五号及び同項に基づき公正取引委員会の指定した不公正な取引方法(昭和二八年同委員会告示第一一号、以下「一般指定」という。)十に該当し、独禁法一九条に違反するが、その違反の程度は軽いものというべきであるから、右契約は無効でないと判断し、本件貸付債務の元本、利息及び遅延損害金につき被上告人が一部弁済を受けたことを認定したうえ、上告人は被上告人に対し、本件貸付債務の残元本三一七万九七六四円及びこれに対する昭和四〇年一〇月二三日から完済まで日歩六銭の割合による遅延損害金を支払うべき債務を負うが、これを超える債務は負わないとして、右に応じ、上告人の本訴請求は、一部を正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものである、としている。

思うに、銀行、信用金庫、信用協同組合等の金融機関が、中小企業等の顧客に貸付をするにあたり、貸付金に対する実質金利を高める等の目的のもとに、自己の優越的地位を利用して、顧客が現実に借受を必要とする金額(顧客が負担すべき契約締結費用、天引利息その他顧客が控除されることを任意に承諾した債務金等を含む。)(以下「実質貸付額」という。)を超える金額につき、顧客に借受を要求して、実質貸付額についての消費貸借契約と一体として、又は右契約と別個に、消費貸借契約を締結して、実質貸付額を超える金員を貸し付け(以下「超過貸付」という。)、これと同時に超過貸付額を自己に対する預金として預け入れさせ、これに担保権を設定するなどして法律上又は事実上その払戻を制限するなどいわゆる拘束された即時両建預金をさせたときには、このような預金契約及びそのための超過貸付についての契約は、その目的に照らし、実質貸付額についての契約に附された取引条件というべきであり、このような預金契約及び超過貸付についての契約が右の取引条件として合理性を有しないものであつて、右各契約が複合することによつて顧客に対し正常の商慣習上是認し難い不当な不利益を与えている限り、実質貸付額についての契約、拘束された即時両建預金契約及び超過貸付についての契約は、独禁法一九条及び利息制限法の適用上、実質的に一体不可分のものとして総合的に評価するのが相当である。

上述したところによつて、本件をみると、本件貸付中の二〇〇万円及び本件別口貸付四〇〇万円は前述の超過貸付額に該当し、これらによつて設けられた本件定期預金二〇〇万円及び本件むつみ定期預金四〇〇万円は、本件貸付及びこれと同時になされた本件別口貸付に対する拘束された即時両建預金に該当すると判断するのが相当である。
原審は、本件貸付金から控除された四口の定期積金の掛金合計一四万円についても上告人に不当に不利益を与える拘束された即時両建預金に該当すると判断する。
しかし、右定期積金契約のうち本件定期積金契約は、契約額の合計が本件貸付額を超えないものであり、その掛金も第一回分の一〇万円だけであつて過度の一時先掛けがなされているわけのものでないから、それは長期の融資である本件貸付の割賦返済の方法としてなされたものとみるのが相当であり、右定期積金の掛金につき本件貸付のため質権が設定されたとはいえ、いまだ正常な商慣習に照らして上告人に不当に不利益な取引条件であるといい難い。また、その余の定期積金の掛金四万円は本件貸付前に締結された定期積金の当月分の掛金の支払にすぎず、本件貸付契約の取引条件であつたと判断するのは相当でない。なお、前記(4)(チ)の五〇万円の追加出資は本件貸付金から控除してなされたものであるが、右のような出資は、より多数の組合員の借入需要に応ずるための資金準備上合理性があり、その額の本件実質貸付額に対する比率は全国の信用協同組合が採用している貸付基準である出資額の貸付額に対する比率を逸脱していないのであるから、右の追加出資契約は、正常な商慣習に照らして上告人に不当に不利益な条件に該当するといえず、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。結局、本件貸付における実質貸付額は、本件貸付及び本件別口貸付の合計一一五〇万円から前記の即時両建預金の合計六〇〇万円を控除した残額五五〇万円であるとみるべきである。
そうすると、本件においては、金融機関である被上告人が経済的弱者である上告人に、実質貸付額五五〇万円にすぎない本件貸付をするにあたり、その取引条件として、前記のとおり本件貸付契約及び本件別口貸付契約により合計六〇〇万円を超過して貸し付け、右金員を拘束された即時両建預金である本件定期預金及び本件むつみ定期預金とさせたものであると認めるべきである。そして、右実質貸付額に対比すれば十分な物的及び人的担保があるのに、本件貸付及び本件別口貸付の合計一一五〇万円とこれに対する拘束された即時両建預金の合計六〇〇万円との比率は約五二・二パーセントに達し、また、上告人が被上告人に支払うべきものとされる利息(本件貸付金に対する日歩三銭五厘の利息及び本件別口貸付金に対する日歩二銭の利息)から上告人が被上告人から受け取るべき利息(本件定期預金に対する年五分一厘の利息、本件むつみ定期預金に対する年三分六厘の利息及びその実質は利息にほかならないというべき本件むつみ定期預金の割増金総額を総口数に平分して年利率に換算した一分四厘八毛相当の割増金)を控除した実質的な利息の実質貸付額に対する割合、すなわち実質金利は、計算上年一割七分一厘八毛余であつて、利息制限法一条一項所定の年一割五分の制限利率を超過するなどの事情が認められるのであるから、前記取引条件は、少なくとも、被上告人が実質貸付額五五〇万円の貸付にあたり不法に高い金利を得る目的のもとに上告人に要求したものと認めるのが相当である。したがつて、右取引条件は、被上告人の「取引上の地位が優越していることを利用」して附された「正常な商慣習に照らして相手方に不当に不利益な条件」であつて、被上告人は本件貸付につき独禁法一九条及び一般指定十にいう不公正な取引方法を用いたものであるというべきである。

ところで、独禁法一九条に違反した契約の私法上の効力については、その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として、上告人のいうように同条が強行法規であるからとの理由で直ちに無効であると解すべきではない。けだし、独禁法は、公正かつ自由な競争経済秩序を維持していくことによつて一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするものであり、同法二〇条は、専門的機関である公正取引委員会をして、取引行為につき同法一九条違反の事実の有無及びその違法性の程度を判定し、その違法状態の具体的かつ妥当な収拾、排除を図るに適した内容の勧告、差止命令を出すなど弾力的な措置をとらしめることによつて、同法の目的を達成することを予定しているのであるから、同法条の趣旨に鑑みると、同法一九条に違反する不公正な取引方法による行為の私法上の効力についてこれを直ちに無効とすることは同法の目的に合致するとはいい難いからである。また、本件のように、前記取引条件のゆえに実質金利が利息制限法に違反する結果を生ずるとしても、その違法な結果については後述のように是正されうることを勘案すると、前記事情のもとでは、本件貸付並びにその取引条件を構成する本件別口貸付、本件定期預金及び本件むつみ定期預金の各契約は、いまだ民法九〇条にいう公序良俗に反するものということはできない。それゆえ、これらの契約を有効とした原審の判断は、その限りにおいて、正当というべきである。
しかし、右取引条件のゆえに実質金利が利息制限法一条一項所定の利率を超過する結果を生じ、ひいては遅延損害金の実質的割合も同法四条一項所定の割合を超過する結果を生じている以上、右超過部分は、同法の法意に照らし違法なものとして是正しなければならない。そして、本件取引において実質金利及び遅延損害金の実質的割合が利息制限法所定の利率及び割合に違反する結果にならないようにするために、本件貸付及び本件別口貸付を通じて貸付利率を一律に是正するとすれば、計算上本件別口貸付の貸付利率についてはかえつてこれを引き上げなければならないこととなつて妥当ではないから、その方法としては、前記各即時両建預金が存在しているため実質金利が利息制限法に違反する結果を生じていた期間中、本件貸付契約中利率及び遅延損害金の割合に関する約定の一部が無効になるものとして是正するのが相当であり、上告人が支払つた利息のうち実質貸付額五五〇万円を元本として利息制限法一条一項所定の利率により計算した金額を超過した部分(なお、前記(4)(イ)の天引利息の実質的な超過部分については、さらに同法二条に従い計算すべきであることはいうまでもない。)及び上告人が支払つた遅延損害金のうち同法四条一項所定の割合により前同様に計算した金額を超過した部分は、民法四八八条又は四八九条により、本件貸付契約又は本件別口貸付契約の残存元本債務に充当されたものと解するのが相当である(当庁昭和三五年(オ)第一一五一号同三九年一一月一八日大法廷判決・民集一八巻九号一八六八頁参照)。

以上のとおりであるから、右と異なる見解のもとに、本件貸付の元本、利息及び遅延損害金の債務の現在額を算出した原審の判断は、法令の解釈適用を誤つた違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。そして、本件貸付債務がいかなる限度において残存するかは、原判決が確定した事項のほか、さらに、本件貸付の約定利息として支払済の金額、本件別口貸付についての遅延損害金の約定の有無と支払済の金額、本件むつみ定期預金契約の解約された時期、本件貸付債務及び本件別口貸付債務についての弁済充当に関する合意又は指定の有無などの諸事項を考慮しなければならないから、原判決中上告人敗訴部分は、結局、全部破棄を免れないものというべきであり、叙上の見地に立つてさらに審理を尽くすため(なお、原審は、本件貸付債務の遅延損害金の割合が被上告人の一部放棄により昭和三六年五月一二日以降日歩六銭に低減されたことを認定しながら、原判決末尾添付の別紙貸付関係計算書においては同年一一月一六日以降日歩六銭に低減されたものとしてその金額を計上しているから、この点について原審の判断には理由の齟齬がある。)、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官大塚喜一郎の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官大塚喜一郎の意見は、次のとおりである。

私は、本件追加出資を本件貸付契約の取引条件とした被上告人の行為に対する法的評価について多数意見に同調することができない。その理由は、次のとおりである。

一 上告理由第一点II一(六)及び二は、要するに、本件貸付契約の取引条件として上告人に本件追加出資五〇万円をきよ出させた被上告人の行為は、相互扶助の精神に基づき設立された助成組合である被上告人の基本的性格に反する行為であり、右追加出資の実質は拘束預金にほかならないから、これを拘束預金としなかつた原審の判断は、法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。
もとより、出資金と預金とは、その法的性格を異にするが、借受を必要とする金額(多数意見のいう「実質貸付額」)以上の額を契約上名目的に貸し付け、名目貸付額と実質貸付額との差額を拘束する点において、右両者とも、その経済的効用はさして異ならないのであり、したがつて、中小企業等協同組合(以下「中小企協組合」又は「組合」という。)である被上告人が、組合員である上告人に対し本件貸付をするにあたり、その取引条件として本件追加出資をさせたこと(以下「本件条件付貸付」という。)は、独禁法及び利息制限法の適用上、拘束された即時両建預金と同様の法的評価を受けうる余地がある。

二 この点に関連する本件条件付貸付の法的評価をするにあたつて、多数意見は、右貸付をした被上告人が一般の営利的金融機関(以下「一般金融機関」という。)でなく、中小企協組合であることについて、格別の顧慮を払つていないように思われる。しかし、右の法的評価をするにあたつては、被上告人が一般金融機関と基本構造を異にする協同組合であることを考慮すべきであり、協同組合理念に照らし、被上告人の行為を検討することが重要である。
思うに、中小企協組合は、中小企業者の個別収益の助成促進を目的として組織される人的結合体であり、資本主義社会における経済的弱者である中小企業者の自己防衛的相互扶助団体であり、協同組合の一形態として、消費生活協同組合、農業協同組合、漁業協同組合、森林組合等と同様、一八四四年ロツチデール衡平開拓者組合以来の「組合員の相互扶助」、「組合の組合員に対する直接奉仕」、「一人一票主義」等の協同組合理念に基づき設立されているのである。中小企業等協同組合法(以下「法」という。)五条が、組合は、組合員の相互扶助を目的とすべきこと(一項一号、以下「相互扶助性」という。)、組合の行う事業によつて組合員に直接の奉仕をすることを目的とすべきこと(二項、以下「直接奉仕の原則」という。)、組合の議決権及び選挙権は、出資口数にかかわらず平等であるべきこと(一項三号、以下「一人一票主義」という。)等を中小企協組合の基本原則として掲げていることは、わが国の中小企協組合も、右の歴史的・伝統的な組合理念に基づいて設立され、この理念に則つて行為すべきことを明らかにしたものにほかならない。その結果、中小企協組合について、一般金融機関と異なる制約・特典などの諸制度が法定されている。すなわち、組合は、一定地域内の小規模事業者等を組合員とし(法八条四項)、その組織の拡大を内在的に制約されているが、反面、協同組合連合会を組織することができ(法三条三号)、貸付資金に不足するときは連合会からの借入金によつてこれを補い、あるいは連合会に斡旋して組合員の借受需要を充たすことができ(法九条の九、一項二号、この点については、さらに協同組合組織を通じての国の中小企業助成施策もありうることを参考とすべきである。)、また、税法上においても特典(法九条、法人税法六一条一項、同法一一五条二項、租税特別措置法四二条一項二号、地方税法七二条の二二、一項、四項五号)を与えられている。
中小企協組合に、かかる一般金融機関と異なる諸制度が設けられている所以は、前述の中小企協組合の基本的性格に基づくものであり、前掲の基本理念にそつた組合の運営を可能ならしめるためである。

三 ところで、本件条件付貸付は、中小企協組合の組合員に対する信用供与行為であり、信用供与という点においては、一般金融機関の顧客に対する信用供与と共通するのであるが、組合の組合員に対する信用供与は、組合の基本的な性格上、次のような特質を有する。すなわち、中小企業者は、自己の個別経済の助成を受けることを目的として組合員となるのであるから、組合と組合員との社員関係は、組合員がその個別利益を図るため、組合と顧客関係・取引関係をもつことを内在的に予定しており、顧客的社員関係として把握されるべきである。そして、顧客関係は、組合員の組合事業(本件の場合は信用供与)利用の需要があるまで、社員関係に潜在しているにとどまり、その需要が生じたときに社員関係から流出して組合対組合員の取引関係として顕在化する。このとき、組合と組合員との間には社員関係と顧客関係がともに顕在化するが、組合員の需要が消滅し取引関係が終了したときには、顕在化していた顧客関係は再び社員関係に沈潜するのである(大塚・協同組合法の研究三五八頁以下)。
右のように、組合員に対する信用供与は、単なる顧客関係・取引関係ではなく、社員関係を基盤とし、これから派生した顧客関係である。したがつて、法五条二項は、前述のように組合の直接奉仕の原則を掲げるが、組合の組合員に対する信用供与を、一般金融機関の如き顧客関係としてではなく、組合が、組合員の組合事業に対する需要に応ずることによつて、組合員の個別経済を助成しているという視点で把えるべきであり、このことによつて、はじめて右信用供与は、組合の組合員に対する直接奉仕としての組合目的にそつた行為となると解しうるのである。しかも、法五条二項は、直接奉仕の原則を規定するにあたり、特に、「特定の組合員の利益のみを目的としてその事業を行つてはならない。」としているが、法五条一項三号が、前記の一人一票主義を規定するにあたり、組合員の社員権はその「出資口数にかかわらず、平等である。」としていることを併せ考えると、右法五条二項は、顧客的社員権から流出した組合と組合員との取引関係にも組合員の社員権平等という組合理念が投影されるべきであり、出資額の多寡により組合員の需要に対して差別
的取扱をすべきでないことをもいうものと解すべきである。
以上のように、組合の組合員に対する信用供与は、組合と組合員の顧客的社員関係に基づく、組合の組合員に対する直接奉仕の行為であるところ、本件条件付貸付の法的評価にあたつては、右の特質に照らして考察すべきである。

四 多数意見は、被上告人が上告人に対し、本件貸付にあたり、実質貸付額を超える超過貸付をし、その超過貸付金を拘束預金とさせたことを、本件貸付契約の取引条件であるとし、右のような条件付貸付は、独禁法にいう不公正な取引方法、すなわち「取引上の地位が優越していることを利用」して附された「正常な商慣習に照らして相手方に不当に不利益な条件」であるとしているが、私もこの限度において、右の結論に異論はない。
しかしながら、独禁法に触れる不公正な取引方法の一要件である「正常な商慣習に照らして……不当に不利益な条件」にあたるか否かを考えるにあたつては、その取引の本来あるべき状態に照らして、不当に不利益な条件を附したものであるか否かを判断すべきであるところ、本件貸付は、組合である被上告人の組合員である上告人に対する貸付であるから、組合のなす貸付の本来あるべき姿に照らして本件条件付貸付を評価すべきである。そして、組合の組合員に対する貸付の本質は、叙上のように、一般金融機関の貸付と異なり、組合の基本理念である相互扶助性・直接奉仕の原則によつて貫かれていなければならないのであり、これを併せ考えれば、本件条件付貸付が、右理念から乖離したものであり、組合員である上告人にとつて不当に不利益な条件付取引であることが明確になるものと考えられる。

五 そこで、本件追加出資について検討する。
多数意見は、本件追加出資を本件貸付契約についての「正常な商慣習に照らして.不当に不利益な条件」とはいえないとして、この点についての原審の判断を是認しており、その理由として、右のような追加出資は、より多数の組合員の借入需要に応ずるための資金準備上合理性があり、その額の本件貸付額に対する比率は、全国の信用協同組合における出資額の貸付額に対する標準的比率を逸脱するものではない、としている。ちなみに、原審の確定した事実によると、全国の信用協同組合が採用している貸付基準である出資額の貸付額に対する標準的比率は五ないし一〇パーセントであり、被上告人においても貸付額の八ないし一〇パーセントを保持することを貸付の基準(以下「貸付基準」という。)としており、本件追加出資の要求はこれによつたものであるというのである。もとより、信用協同組合が、貸付資金源の確保等のため貸付基準を保持することは、一般的に是認されるところであるが、問題は、出資金の用意のない組合員に対し貸付金から追加出資金をきよ出させること、そのために貸付金から出資金相当額を即時控除することが、たとえ右出資額が貸付基準の比率内のものであるとしても、許容されるかどうか、である。
ところで、本件貸付は、名目貸付額七五〇万円であり、これと別口貸付四〇〇万円とを合わせると、名目貸付額は一一五〇万円となるところ、被上告人は、そのうち六〇〇万円を拘束預金として預け入れさせ、さらに五〇万円を即時控除して追加出資させ、その残余(正確には、さらに諸経費等を控除している。)のみを上告人に交付しているのである。右取引の金額・態様・名目貸付額と上告人の現実に交付を受けた額、先に述べた信用協同組合における、組織拡大の内在的制約と貸付資金準備についての特別な制度及び税法上の特典、さらに、出資金は、預金と異なりその払戻しが実現することは少なく、拘束性が預金より強いこと等を総合して考えると、本件追加出資を単に貸付基準維持のためにさせた合理性あるものとは首肯しがたく、むしろ本件貸付の実質金利を高める手段として拘束預金と併用されたものと解するほかない。そうすると、本件追加出資のみを拘束預金と区別すべきでなく、右追加出資を本件貸付契約の条件の一つとしたことは、被上告人の信用協同組合としての基本理念である相互扶助性・直接奉仕の原則(法五条一項一号、二項)に反するものというべく、独禁法に触れる「正常な商慣習に照らし相手方に不当に不利益な条件」を附したものであり、この点にかんする諭旨は理由がある。

六 そこで、右判断を前提として、本件条件付貸付契約の独禁法及び利息制限法上の適否について検討する必要があるが、私は、独禁法一九条の解釈について多数意見に同調するものであるから、その判示するところを援用して結論だけを示すこととしたい。すなわち、本件追加出資及びこれを前提とする本件貸付契約中の右出資額対応部分の貸付は、実質貸付額についての貸付契約に附された取引条件というべきであり、かつ、貸付の取引条件として合理性のないものであつて、右の両契約が複合することによつて組合員たる上告人に対し正常な商慣習上是認しえない不当な不利益を与えているものというべく、法五条一項二号、二項、独禁法一九条、一般指定十及び利息制限法の適用上、被上告人は不公正な取引方法を用いたものであり、結局、本件条件付貸付は、右法条に違反するものであると解する。そして、独禁法一九条に違反する契約の私法上の効力及び利息制限法所定の利率を超過する貸付利息等の是正にかんして、多数意見が即時両建預金について判示するところは、本件追加出資についてもあてはまるから、これを援用する。
よつて、本件追加出資契約及び本件貸付中追加出資額五〇万円に対応する部分の貸付契約は、私法上有効であるとすべきではあるが、本件契約の実質貸付額及び実質金利を算定するうえでは、多数意見のいう実質貸付額五五〇万円からさらに右五〇万円を控除した五〇〇万円を実質貸付額としてその実質金利及び遅延損害金の実質的割合を計算し、上告人が被上告人に対して支払つた利息及び遅延損害金のうち、利息制限法一条一項所定の利率及び同法四条一項所定の割合を超過する部分は、本件貸付契約及び本件別口貸付契約の残元本債務に充当されたものと解するのが相当であり、この意見を多数意見の説く原判決破棄理由に加えるべきである。

最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官    岡   原   昌   男
裁判官    大   塚   喜 一 郎
裁判官    吉   田       豊
裁判官    本   林       讓
裁判官    栗   本   一   夫

 

 

司法書士にじいろ法務事務所|債務整理(借金、多重債務、過払金、自己破産、個人再生など)

債務整理・過払い請求のご相談はこちらをクリックしてください⇒「HOME」へ

専門職への相談は解決への第一歩です。

最高裁昭和43年2月16日第二小法廷判決・ 民集第22巻2号217頁

2016-12-06

主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

 

理    由
上告代理人中田義正の上告理由第一の一、二について。
所論の点に関する原審の認定、判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして正当としてこれを肯認することができ、その判断の過程に所論のごとき違法はなく、論旨は理由がない。

同第一の三について。
準消費貸借契約は目的とされた旧債務が存在しない以上その効力を有しないものではあるが、右旧債務の存否については、準消費貸借契約の効力を主張する者が旧債務の存在について立証責任を負うものではなく、旧債務の不存在を事由に準消費貸借契約の効力を争う者においてその事実の立証責任を負うものと解するを相当とするところ、原審は証拠により訴外Dと上告人間に従前の数口の貸金の残元金合計九八万円の返還債務を目的とする準消費貸借契約が締結された事実を認定しているのであるから、このような場合には右九八万円の旧貸金債務が存在しないことを事由として準消費貸借契約の効力を争う上告人がその事実を立証すべきものであり、これと同旨の原審の判断は正当であり、論旨は理由がない。

同第一の四について。
原審の確定した事実関係に照らせば、行政書士Eの介入した本件債権譲渡の承諾ならびに弁済方法に関する契約をもつて無効であると解すべき理由は見い出しがたいから、所論の点に関する原審の判断は正当であり、諭旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官    奥   野   健   一
裁判官    草   鹿   浅 之 介
裁判官    城   戸   芳   彦
裁判官    石   田   和   外
裁判官    色   川   幸 太 郎

 

 
司法書士にじいろ法務事務所|債務整理(借金、多重債務、過払金、自己破産、個人再生など)

債務整理・過払い請求のご相談はこちらをクリックしてください⇒「HOME」へ

専門職への相談は解決への第一歩です。

司法書士にじいろ法務事務所|債務整理(借金、多重債務、過払金、自己破産、個人再生など)-唐津市、玄海町

2016-12-04

債務整理・過払い請求のご相談はこちらをクリックしてください⇒「HOME」へ

専門職への相談は解決への第一歩です。

 

唐津市における消費者問題、債務整理(借金、任意整理、過払い金請求、特定調停、破産、民事再生など)の相談窓口
唐津市消費生活センター
唐津市西城内1-1 唐津市役所内
電話番号 0955-73-0999
相談時間 8時30分~17時15分(月曜日~金曜日 祝日・年末年始を除く)

玄海町における相談窓口
玄海町住民福祉課
電話番号 0955-52-2158
相談時間 10時~16時(毎週金曜日、祝日・年末年始を除く)

唐津市、東松浦郡(玄海町)の管轄裁判所
唐津簡易裁判所、佐賀地方裁判所唐津支部、佐賀家庭裁判所唐津支部
〒847-0012
佐賀県唐津市大名小路1-1
電話番号(代)0955-72-2138

司法書士 にじいろ法務事務所|福岡 債務整理|フリーコール0120-39-0001 電話受付時間 平日9:00~18:00