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最高裁平成22年6月4日第二小法廷判決・集民第234号111頁(対ライフカード)

2016-09-22

主文
1(1) 原判決主文第2項のうち,「73万9751円」とあるのを「66万0477円」と更正する。
(2) 原判決19頁19行目の「9万2425円」とあるのを「1万3151円」と更正する。
2 原判決中,上告人敗訴部分のうち,「42万6510円及びうち41万3359円に対する平成15年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員」を超える金員の支払請求に関する部分を破棄し,同部分に係る第1審判決を取り消す。
3 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
4 上告人のその余の上告を却下する。
5 訴訟の総費用は,これを2分し,その1を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。

理由
上告代理人羽野島裕二ほかの上告受理申立て理由について

1 本件は,被上告人が,貸金業者である上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しているなどと主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき過払金,民法704条前段所定の利息(以下,単に「法定利息」という。)及び遅延損害金の支払を求める事案である。上告人は,被上告人において,上告人が更生手続開始の決定を受けるまでに発生した請求権につき更生債権の届出期間内にその届出をしていないから,平成14年法律第154号による改正前の会社更生法241条本文により,その責めを免れると主張し(以下,更生債権につきその責めを免れることを「失権」という。),被上告人は,上告人において,上記のような主張(以下「失権の主張」という。)をすることは,信義則に反し許されないと主張する。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,昭和58年10月8日,貸金業者である上告人との間でカード会員契約を締結し,上告人からライフカードの貸与を受けた。そして,被上告人は,平成元年5月9日から平成15年6月2日までの間,上記契約に基づき,第1審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に,「借入金額」欄記載の各金額を借り入れ,同「弁済額」欄記載の各金額を上告人に支払った(以下,この間の取引のことを「本件取引」という。)。上記契約は,制限超過部分を元本に充当することにより過払金が発生した場合には,これをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む。
(2) 上告人は,平成12年5月19日,東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)に対し,更生手続開始の申立てをした(以下,上告人の更生手続のことを「本件更生手続」という。)。上告人は,本件更生手続において,上告人の営業全体をスポンサーとなる企業に譲渡して弁済資金を調達することを予定しており,上記申立ては,約632万人の会員との間で締結していたカード会員契約を維持することを前提としてされたものであった。東京地裁は,同日,保全管理命令を発令したが,同命令においては,クレジットカードの使用によって上告人が負担する債務の弁済は裁判所の許可を要しないこととされた。
(3) 平成12年6月2日,新聞紙上に「ライフカードは,これまで通りお使いいただけます。」という見出しの社告(以下「本件社告」という。)が上告人名義で掲載されたが,上告人は,その際,過払金返還請求権について債権の届出をしないと失権することがある旨の説明をしなかった。
(4) 東京地裁は,平成12年6月30日,更生手続開始の決定(以下「本件決定」という。)をしたが,同決定において,融資の業務を行うために必要な日常取引については裁判所の許可を要しないこととされた。そして,本件決定の前後を通じ,上告人発行のライフカードの利用形態に格別の変化はなく,被上告人を含めた大多数の顧客は,上告人との間のカード会員契約に基づく取引を継続した。
(5) 本件決定当時,本件取引により過払金が発生していたが,上告人は,被上告人を更生債権者として債権者一覧表に記載せず,他方,被上告人も更生債権の届出をしなかった。なお,本件更生手続において,過払金返還請求権を更生債権として届出をした者は,2名であった。
(6) 更生計画においては,更生担保権については全額を弁済することとされたが,一般更生債権の最低弁済率は47.72%とされた。東京地裁は,平成13年1月31日,更生計画認可の決定をした。
(7) Aが上告人のスポンサーとなり,更生債権等の弁済のための資金を上告人に提供するなどし,その結果,一般更生債権の最低弁済率は,更生計画における想定を上回って,54.298%となった。平成13年3月には,更生担保権及び一般更生債権等に対する一括弁済がされ,同月29日,東京地裁は,更生手続終結の決定をした。
(8) 上記(1)の合意に基づき,本件取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当して計算すると,本件決定当時,43万0895円の過払金が発生しており,被上告人による弁済が最後に行われた平成15年6月2日当時,本件決定より後に行われた取引により41万3359円の過払金が発生していた。また,上記取引による過払金につき生じた法定利息の額は,第1審判決別紙2の「過払利息残額」欄記載のとおりとなる。

3 原審は,上記事実関係の下において,本件決定までに発生した過払金に係る不当利得返還請求につき,次のとおり判断し,被上告人の請求を一部認容した。
(1)ア新聞紙上に本件社告が上告人名義で掲載されたが,上告人は,その際,過払金返還請求権について債権の届出をしないと失権することがある旨を説明すべきであった。
イBは,平成16年6月4日,更生手続開始の決定を受け,Aが同社のスポンサーとなったが,その更生手続においては,上記決定前に発生した同社の顧客の過払金返還請求権につき,更生債権としての届出を必要とせず,更生計画認可の決定による失権の効果は及ばないなどの取扱いがされた。上告人の更生手続についても,Aがスポンサーとなって進められたことからすれば,上告人としては,上記取扱いが判明した後はこれと同様の取扱いをすべきであった。
ウ以上によれば,上告人において,失権の主張をすることは,信義則に反し許されない。
(2) 上告人は,被上告人に対し,本件決定当時発生していた過払金43万0895円の54.298%(本件更生手続における一般更生債権の最低弁済率)に相当する23万3967円及びこれに対する平成15年6月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 上告人が,本件更生手続において,顧客に対し,過払金返還請求権につき更生債権の届出をしないと失権するなどの説明をしなかったからといって,そのことをもって,上告人による失権の主張が信義則に反するということはできない(最高裁平成21年(受)第319号同年12月4日第二小法廷判決・裁判集民事232号登載予定参照)。そして,前記事実関係によれば,本件社告は,本件更生手続において,更生手続開始の申立てがされた後,更生手続開始の決定前にされたものであり,カード会員の脱会を防止して従前の営業を継続し,会社再建を阻害することなく進めることを目的として行われたものとみることができるのであって,その目的が不当であったとはいえない上,その内容も,顧客に対し更生債権の届出をしなくても失権することがないとの誤解を与えるようなものではなく,その届出を妨げるようなものであったと評価することもできない。そうであれば,本件社告が掲載された際に,上告人において,過払金返還請求権につき債権の届出をしないと失権するなどの説明をしなかったとしても,以上と別異に解する余地はない。
また,上告人と同様にAをスポンサーとして進められたBの更生手続において,更生手続開始の決定前に発生した過払金返還請求権につき,更生債権としての届出を必要とせず,更生計画認可の決定による失権の効果は及ばないなどの取扱いがされたとしても,異なる事情の下で進められた上告人の更生手続において,これと同じ取扱いがされなければならないと解する根拠はなく,上告人による失権の主張が信義則に反することになるものでもない。
そして,他に,上告人による失権の主張が,信義則に反すると認められるような事情も見当たらない。
(2) そうすると,上告人による失権の主張が信義則に反すると判断して,上告人が,被上告人に対し,本件決定当時発生していた過払金の54.298%に相当する23万3967円及びこれに対する遅延損害金を支払うべきであるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人敗訴部分のうち,本件決定より後に行われた取引により発生した過払金41万3359円と法定利息1万3151円の合計額である42万6510円及びうち41万3359円に対する平成15年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分は破棄を免れない。
そして,以上説示したところによれば,同部分に係る請求は理由がないから,第1審判決中,同請求に係る部分を取り消して,被上告人の請求を棄却すべきである。
上告人は,本件決定より後に行われた取引により発生した過払金に係る不当利得返還請求に関する部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
なお,原判決の説示に照らすと,原判決の理由中,平成15年6月2日当時存在していた法定利息の額を「9万2425円」とする部分は,「1万3151円」とすべきものであることが計算上明らかである。そうすると,原判決の主文及び理由に明白な誤りがあるから,職権により主文第1項のとおり更正する。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官千葉勝美裁判官竹内行夫裁判官須藤正彦)

 

 

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最高裁平成22年(受)第1983号平成25年4月11日第一小法廷判決(対アコム)

2016-09-21

主 文
原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

 

理 由
上告代理人石井宏治の上告受理申立て理由について

1 本件は,上告人が,貸金業者である被上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引について,各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金及び民法704条前段所定の利息(以下「法定利息」という。)の支払を求める事案である。上告人は過払金について法定利息が発生した場合にはまずこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当し,次いで過払金をその残額に充当すべきであると主張するのに対し,被上告人は法定利息を新たな借入金債務に充当することはできないと主張してこれを争っている。

2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人は,被上告人との間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結し,これに基づき,昭和57年8月26日から平成20年12月11日までの間,第1審判決別紙計算書1の「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引を行った(以下,この取引を「本件取引」という。)。
(2) 本件基本契約は,基本契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。(3) 被上告人は,発生した過払金の取得について民法704条の「悪意の受益者」であった。
(4) 被上告人は,第1審判決後の平成22年3月11日までに,本件取引に係る過払金返還債務の履行として,上告人に対し882万3802円を支払った。

3 原審は,上記事実関係の下において,過払金について発生した法定利息を新たな借入金債務に充当することはできないと判断した上で,被上告人が平成20年12月11日の時点で上告人に対して負っていたのは,本件取引により発生した過払金543万3013円及びこれに対する同日までに発生した法定利息305万2156円の合計848万5169円であったところ,被上告人が平成22年3月11日までに882万3802円を弁済したことにより上告人の被上告人に対する不当利得返還請求権は消滅したとして,上告人の請求を棄却した。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,過払金について発生した法定利息を過払金とは別途清算するというのが当事者の合理的な意思であるとは解し難い。そうすると,継続的な金銭消費貸借取引に係る基本契約が過払金充当合意を含むものである場合においては,過払金について発生した法定利息の充当につき別段の合意があると評価できるような特段の事情がない限り,まず当該法定利息を新たな借入金債務に充当し,次いで過払金を新たな借入金債務の残額に充当すべきものと解するのが相当である。
前記事実関係によれば,本件基本契約は過払金充当合意を含むものであり,本件において上記特段の事情があったことはうかがわれないから,本件取引については,まず過払金について発生した法定利息を新たな借入金債務に充当し,次いで過払金を新たな借入金債務の残額に充当すべきである。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,過払金の額等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 白木 勇 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官山浦善樹)

 

 

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最高裁平成19年7月13日第二小法廷判決・集民第225号103頁(対エイワ)

2016-09-20

主文

原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人内藤満の上告受理申立て理由について

1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。

(2) 被上告人は,利息制限法1条1項所定の制限利率(以下,単に「制限利率」という。)を超える利率の利息の約定で,次のとおり,上告人に金員を貸し付けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。
① 平成7年10月2日7万円
② 平成8年4月4日12万円
③ 平成8年10月2日17万円
④ 平成9年4月7日22万円
⑤ 平成9年10月8日25万円
⑥ 平成10年4月7日24万円
⑦ 平成10年10月7日25万円
⑧ 平成11年4月6日28万円
⑨ 平成11年10月4日30万円
⑩ 平成12年4月26日30万円
⑪ 平成12年10月3日35万円
⑫ 平成13年5月8日35万円
⑬ 平成13年11月1日35万円
⑭ 平成14年5月2日30万円
⑮ 平成14年11月5日30万円
⑯ 平成15年5月1日30万円
⑰ 平成15年11月4日30万円

(3) 上告人は,被上告人に対し,本件各貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に「弁済額」欄記載の各金員を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。

(4) 被上告人は,本件各弁済のうち,被上告人の店舗への持参の方法による支払がされた場合にはその都度「領収書兼残高確認書」と題する書面(以下「本件各領収書」という。)を交付したが,被上告人の預金口座に対する払込みの方法による支払がされた場合には本件各領収書を交付しなかった。
被上告人は,本件各弁済のすべてに貸金業法43条1項の適用があることを前提として,受領した弁済金につき充当計算をし,本件各領収書を作成した。

2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各弁済の弁済金のうち,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると,第1審判決別紙1のとおり過払金が発生しており,かつ,被上告人は上記過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還及び過払金の発生時から支払済みまでの民法704条前段所定の利息の支払を求める事案である。
被上告人は,上告人に対し,本件各貸付けの都度,各回の返済期日,各回の返済金額及びその元本・利息の内訳並びに融資残額を記載した償還表を交付しており,上告人はこれを知った上で被上告人の預金口座に払込みをしていたものであるから,預金口座に対する払込みの場合に貸金業法18条1項に規定する事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)を交付しなくても,被上告人は本件各弁済の時点において貸金業法43条1項の適用要件を満たしていると信じていたのであって,民法704条の「悪意の受益者」ではないと主張している。

原審は,次のとおり判断して,被上告人は民法704条の「悪意の受益者」であると認めることはできないとした。
悪意の受益者とは,法律上の原因のないことを知りながら利得した者をいうところ,法律上の原因の存否は,受益者の利得について問題とされるものである以上,受益者が法律上の原因がないことを知っているというためには,当然,当該利得の存在を知っていることをも要するものというべきであるが,被上告人が過払金の発生当時において,過払金の発生を知っていたと認めることはできない。仮に,受益者が法律上の原因がないことを基礎付ける事実を認識している場合には自己の利得に法律上の原因がないとの認識を有していたことが事実上推定されると解したとしても,この点に関する最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号98頁(以下「平成11年判決」という。)の前はもとより,最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁(以下「平成16年判決」という。)までは,18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られたのであるから,本件では上記推定は妨げられるというべきである。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
金銭を目的とする消費貸借において制限利率を超過する利息の契約は,その超過部分につき無効であって,この理は,貸金業者についても同様であるところ,貸金業者については,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨からすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである
これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したが,預金口座に対する払込みの方法による支払がされた場合には18条書面を交付しなかったというのであるから,これらの本件各弁済については貸金業法43条1項の適用は認められず,被上告人は,上記特段の事情のない限り,過払金の取得について悪意の受益者であることが推定されるものというべきである。
平成11年判決は,制限超過部分の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされる場合について,貸金業法43条1項2号が18条書面の交付について何らの除外事由を設けていないこと,及び債務者は18条書面の交付を受けることによって払い込んだ金銭の利息,元本等への充当関係を初めて具体的に把握することができることを理由に,上記支払が貸金業法43条1項によって有効な利息の債務の弁済とみなされるためには,特段の事情がない限り貸金業者は上記払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならないと判示したものである。
被上告人は,上告人に対し,償還表を交付したと主張しているが,この償還表は,本件各貸付けの都度上告人に交付されるもので,約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載したものであるというのであるから,上記償還表に各回の返済金額の元本・利息の内訳が記載されていたからといって,実際に上記償還表に記載されたとおりの弁済がされるとは限らないし,払い込まれた弁済金が上記償還表に記載されたとおりに,利息,元本等に充当されるとも限らない。したがって,平成11年判決の上記説示によれば,貸金業法43条1項の適用が認められるためには,上記償還表が交付されていても,更に18条書面が交付される必要があることは明らかであり,上記償還表が交付されていることが,平成11年判決にいう特段の事情に該当しないことも明らかというべきである。なお,平成16年判決は,債務者が貸金業者から各回の返済期日の前に貸金業法18条1項所定の事項が記載されている書面で振込用紙と一体となったものを交付されている場合であっても,同項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできないとしたものであり,被上告人が交付したと主張する上記償還表のような貸付けに際して貸金業者から債務者に交付される書面について判示したものではない。
そうすると,少なくとも平成11年判決以後において,貸金業者が,事前に債務者に上記償還表を交付していれば18条書面を交付しなくても貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるというためには,平成11年判決以後,上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか,上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠があって上記認識を有するに至ったことが必要であり,上記認識に一致する見解があったというだけで上記特段の事情があると解することはできない。
したがって,平成16年判決までは,18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られたというだけで被上告人が悪意の受益者であることを否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そこで,前記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官今井功 裁判官津野修 裁判官中川了滋 裁判官古田佑紀)

 

 

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最高裁平成23(受)2094号平成25年2月28日第一小法廷判決

2016-09-19

主 文
1 原判決中主文第1項を破棄し,同項に係る部分につき,第1 審判決を取り消し,被上告人の請求を棄却する。
2 原判決中主文第2項を破棄し,同項に係る部分につき本件を札幌高等裁判所に差し戻す。
3 第1項に関する訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

理 由
上告代理人前田陽司,同黒澤幸恵,同那須由佳里の上告受理申立て理由第2の1について

1 本件の本訴請求は,被上告人が,自己の所有する不動産に設定した根抵当権について,その被担保債権である貸付金債権が相殺等により消滅したとして,上告人に対し,所有権に基づき,根抵当権設定登記の抹消登記手続を求めるものであり,反訴請求は,上告人が,被上告人に対し,上記貸付金の残元金27万6507円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるものである。被上告人による上記相殺につき,被上告人は自働債権の時効消滅以前に相殺適状にあったから民法508条によりその相殺の効力が認められると主張するのに対し,上告人は同相殺が無効であると主張して争っている。

2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,貸金業者である上告人との間で,平成7年4月17日から平成8年10月29日まで,利息制限法所定の制限を超える利息の約定で継続的な金銭消費貸借取引を行った。この取引の結果,同日時点において,18万0953円の過払金が発生していた(以下,この過払金に係る不当利得返還請求権を「本件過払金返還請求権」という。)。
(2) 被上告人は,平成14年1月23日,貸金業者であるA株式会社との間で,金銭消費貸借取引等による債務を担保するため,自己の所有する第1審判決別紙物件目録記載の各不動産に極度額を700万円とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定した。
Aは,同月31日,被上告人に対し,457万円を貸し付けた。この金銭消費貸借契約には,被上告人が同年3月から平成29年2月まで毎月1日に約定の元利金を分割弁済することとし,その支払を遅滞したときは当然に期限の利益を喪失する旨の特約(以下「本件特約」という。)があった。
上告人は,平成15年1月6日,Aを吸収合併する旨の登記を完了して,被上告人に対する貸主の地位を承継した。
被上告人は,A及び上告人に対し,上記の貸付けに係る元利金について継続的に弁済を行い,平成22年6月2日の時点において,残元金の額は188万8111円であった(以下,この残元金に係る債権を「本件貸付金残債権」という。)。被上告人は,同年7月1日の返済期日における支払を遅滞したため,本件特約に基づき,同日の経過をもって期限の利益を喪失した。
(3) 被上告人は,平成22年8月17日,上告人に対し,本件過払金返還請求権を含む合計28万1740円の債権を自働債権とし,本件貸付金残債権を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をした。さらに,被上告人は,同年11月15日までに,上告人に対し,上記の相殺が有効である場合における本件貸付金残債権の残元利金に相当する166万8715円を弁済した。
(4) 本件根抵当権の元本は確定しているところ,被上告人は,上記の相殺及び弁済により,その被担保債権は消滅したと主張している。
(5) 上告人は,平成22年9月28日,被上告人に対し,本件過払金返還請求権については,上記(1)の取引が終了した時点から10年が経過し,時効消滅しているとして,その時効を援用する旨の意思表示をした。

3 原審は,次のとおり判断して,本訴請求を認容すべきものとし,反訴請求を棄却した。
(1) 本件貸付金残債権は,貸付けの時点で発生し,被上告人としては,期限の利益を放棄しさえすれば,これを受働債権として本件過払金返還請求権と相殺することができたのであるから,Aの吸収合併により上告人と被上告人との間で債権債務の相対立する関係が生じた平成15年1月6日の時点で,本件過払金返還請求権と本件貸付金残債権とは相殺適状にあったといえる。
(2) そうすると,被上告人は,民法508条により,消滅時効が援用された本件過払金返還請求権と本件貸付金残債権とを対当額で相殺することができるから,本件根抵当権の被担保債権である貸付金債権は,相殺及び弁済により全て消滅した。

4 しかしながら,原審の相殺に関する上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
民法505条1項は,相殺適状につき,「双方の債務が弁済期にあるとき」と規定しているのであるから,その文理に照らせば,自働債権のみならず受働債権についても,弁済期が現実に到来していることが相殺の要件とされていると解される。
また,受働債権の債務者がいつでも期限の利益を放棄することができることを理由に両債権が相殺適状にあると解することは,上記債務者が既に享受した期限の利益を自ら遡及的に消滅させることとなって,相当でない。したがって,既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというためには,受働債権につき,期限の利益を放棄することができるというだけではなく,期限の利益の放棄又は喪失等により,その弁済期が現実に到来していることを要するというべきである。

5 これを本件についてみると,本件貸付金残債権については,被上告人が平成22年7月1日の返済期日における支払を遅滞したため,本件特約に基づき,同日の経過をもって,期限の利益を喪失し,その全額の弁済期が到来したことになり,この時点で本件過払金返還請求権と本件貸付金残債権とが相殺適状になったといえる。そして,当事者の相殺に対する期待を保護するという民法508条の趣旨に照らせば,同条が適用されるためには,消滅時効が援用された自働債権はその消滅時効期間が経過する以前に受働債権と相殺適状にあったことを要すると解される。前記事実関係によれば,消滅時効が援用された本件過払金返還請求権については,上記の相殺適状時において既にその消滅時効期間が経過していたから,本件過払金返還請求権と本件貸付金残債権との相殺に同条は適用されず,被上告人がした相殺はその効力を有しない。そうすると,本件根抵当権の被担保債権である上記2(2)の貸付金債権は,まだ残存していることになる。

6 以上と異なり,本件過払金返還請求権を自働債権とし,本件貸付金残債権を受働債権とする相殺の効力を認めた原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,原判決中主文第1項に係る被上告人の本訴請求部分は理由がないから,同部分につき,第1審判決を取り消し,被上告人の本訴請求を棄却することとする。また,原判決中主文第2項に係る上告人の反訴請求部分については,上記2(2)の貸付金債権の残額等につき更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山浦善樹 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官横田尤孝 裁判官 白木 勇)

 

 

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最高裁 平成23年3月1日第三小法廷判決・ 集民第236号199頁(対クレディア(フロックス))

2016-09-18

主 文
1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 上告人は,被上告人に対し,平成23年6月1日限り30万円及びうち23万6614円に対する同月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被上告人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は,これを4分し,その3を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。

 

理 由
上告代理人高井章光ほかの上告受理申立て理由について

1 本件は,被上告人が,貸金業者であるAを再生債務者とする民事再生手続における再生計画認可の決定が確定した後に同社の権利義務を承継した上告人に対し,BとAとの間の継続的な金銭消費貸借取引において発生した過払金に係る不当利得返還請求権が再生計画の定めにより変更されたとして,変更後の債権(以下「本件債権」という。)の元本である30万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年5月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。上告人は,本件債権について,再生計画において猶予期間が定められているから,その弁済期は到来しておらず,被上告人において,その支払を求めることはできないなどと主張して争っている。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) Bは,Aとの間で,平成9年7月9日から平成13年5月1日までの間,第1審判決別紙「利息制限法に基づく法定金利計算書」記載のとおり,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借取引(以下「本件取引」という。)を行った。
(2) Bは,平成18年3月1日,死亡した。その後,Bの相続人全員が相続を放棄し,平成20年11月18日,Cが被上告人の相続財産管理人に選任された。
(3) Aは,平成19年9月14日,東京地方裁判所に再生手続開始の申立てをした。同裁判所は,同月21日,再生手続開始の決定(以下「本件再生手続開始決定」という。)をし,平成20年8月20日,再生計画認可の決定をした(以下,この決定を「本件再生計画認可決定」といい,これにより認可された再生計画を「本件再生計画」という。)。本件再生計画認可決定は,同年9月17日,確定した。
(4) 本件再生計画は,届出のない再生債権である過払金返還請求権(その利息,損害金等の請求権を含む。以下同じ。)について,請求があれば再生債権の確定を行った上で,届出があった再生債権と同じ条件で弁済する旨を定めるとともに,要旨次のとおり,権利の変更の一般的基準を定める。
ア確定した再生債権(本件再生手続開始決定の日以降の利息,損害金を除く。以下同じ。)の40%相当額を弁済し,その余につき免除を受ける。ただし,確定した再生債権の額が30万円以下である場合はその全額を,30万円を超える場合は40%相当額と30万円の多い方の額を弁済する。
イ届出のない再生債権である過払金返還請求権については,その債権者により請求がされ,再生債権が確定した時(訴訟等の手続がされている場合には,その手続によって債権が確定する。),上記アのとおり権利の変更を受け,その時から3か月以内に,上記アに定める額を弁済する。
(5) 本件取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると,本件再生手続開始決定の日の前日である平成19年9月20日までに過払金23万6614円,民法704条所定の利息7万6538円が発生し,その合計は31万3152円であった(以下,上記過払金及び利息の支払請求権を「本件再生債権」という。)。本件再生債権について,再生債権の届出はない。
(6) 上告人は,平成20年10月1日,Aとの間で,同社の事業を上告人が承継する旨の吸収分割契約を締結して,Aが本件取引に関して有する一切の権利義務を承継した。

3 原審は,上記事実関係の下において,本件再生計画によれば,本件再生債権は,訴訟等の手続がされている場合には,判決の確定等によってはじめて確定するのであって,本件再生債権の確定を前提とする本件再生計画の定めによる権利の変更はいまだ生じていないから,弁済期の未到来をいう上告人の主張は失当であるし,被上告人において過払金元本を超える部分に対する遅延損害金を請求することもできないと判断して,被上告人の請求を全部認容した第1審判決を変更し,これを30万円及びうち23万6614円に対する平成21年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容すべきものとした。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 民事再生法178条本文は,再生計画認可の決定が確定したときは,再生計画の定め又は同法の規定によって認められた権利を除き,再生債務者は,すべての再生債権について,その責任を免れると規定する。そして,同法179条1項は,再生計画認可の決定が確定したときは,届出債権者等の権利は,再生計画の定めに従い,変更されると規定し,同法181条1項は,再生計画認可の決定が確定したときは,再生債権者がその責めに帰することができない事由により届出をすることができなかった再生債権(同項1号)等は,再生計画による権利の変更の一般的基準(同法156条)に従い,変更されると規定する。
(2) 前記事実関係によれば,本件再生計画は,届出のない再生債権である過払金返還請求権について,請求があれば再生債権の確定を行った上で,届出があった再生債権と同じ条件で弁済する旨を定めるが,これは,過払金返還請求権については,届出のない再生債権についても一律に民事再生法181条1項1号所定の再生債権として扱う趣旨と解され,上記過払金返還請求権は,本件再生計画認可決定が確定することにより,本件再生計画による権利の変更の一般的基準に従い変更され,その再生債権者は,訴訟等において過払金返還請求権を有していたこと及びその額が確定されることを条件に,上記のとおり変更されたところに従って,その支払を受けられるものというべきである。
(3) 以上によれば,本件再生債権は,本件再生計画認可決定が確定することにより,本件再生計画による権利の変更の一般的基準に従い変更されており,被上告人は,訴訟等において本件再生債権を有していたこと及びその額が確定されることを条件に,その元利金31万3152円のうち30万円について,本件再生債権が確定された日の3か月後に支払を求めることができる本件債権を有するにとどまるものというべきであり,その弁済期は,本件訴訟の口頭弁論終結時にはいまだ到来していないことが明らかである。

5 したがって,前記事実関係の下において,弁済期未到来をいう上告人の主張を排斥して,被上告人の請求を一部認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。
そして,本件の事案の性質,その審理の経過等に鑑みると,被上告人の請求は,審理の結果,本件債権の弁済期が到来していないと判断されるときは,その弁済期が到来した時点での給付を求める趣旨を含むものと解するのが合理的であり,また,本件においては,あらかじめその請求をする必要があると認められる。
以上説示したところによれば,被上告人の請求は,上告人に対し,本判決確定の
日の3か月後の日である平成23年6月1日限り本件債権の元本である30万円及びこれに対するその翌日である同月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきところ,被上告人から上告がない本件において,原判決を上告人に不利益に変更することは許されないから,原判決を主文のとおり変更するにとどめることとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官田原睦夫裁判官那須弘平裁判官岡部喜代子裁判官大谷剛彦)

 

 

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最高裁平成21年7月10日第二小法廷判決・民集第63巻6号1170頁

2016-09-17

主文
1 原判決中,不当利得返還請求に関する部分のうち,上告人の敗訴部分を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由
上告代理人山田有宏ほかの上告受理申立て理由第8について
1 本件は,被上告人が,貸金業者である上告人に対し,上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しており,かつ,上告人は過払金の取得が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき過払金及び民法704条前段所定の利息(以下「法定利息」という。)の支払等を求める事案である。

2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律。以下,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2) 上告人は,被上告人に対し,原判決別紙の「年月日」欄及び「借入金額」欄記載のとおり,平成8年8月7日から平成15年9月4日までの間に12回にわたって金員を貸し付けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。
本件各貸付けにおいては,① 元本及び利息制限法1条1項所定の制限を超える利率の利息を指定された回数に応じて毎月同額を分割して返済する方法(いわゆる元利均等分割返済方式)によって返済する,② 被上告人は,約定の分割金の支払を1回でも怠ったときには,当然に期限の利益を失い,上告人に対して直ちに債務の全額を支払う(以下「本件特約」という。)との約定が付されていた。
(3) 被上告人は,本件各貸付けに係る債務の弁済として,原判決別紙の「年月日」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,平成8年9月2日から平成16年11月1日までの間,上告人に金員を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。

3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断した上,原判決別紙のとおり,制限超過部分が貸付金の元本に充当されることにより発生した過払金及びこれに対する法定利息がその後の貸付けに係る借入金債務に充当され,その結果,最終の弁済日である平成16年11月1日の時点で,過払金51万4749円及び法定利息1万3037円が存するとして,以上の合計52万7786円及び上記過払金51万4749円に対する同月2日から支払済みまでの法定利息の支払を求める限度で,被上告人の上告人に対する不当利得返還請求を認容した。
(1) 最高裁平成16年(受)第1518号同18年1月13日第二小法廷判決・民集60巻1号1頁(以下「平成18年判決」という。)は,債務者が利息制限法1条1項所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約(以下「期限の利益喪失特約」という。)の下で制限超過部分を支払った場合,その支払は原則として貸金業法43条1項(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできない旨判示している。また,最高裁平成17年(受)第1970号同19年7月13日第二小法廷判決・民集61巻5号1980頁(以下「平成19年判決」という。)は,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情(以下「平成19年判決の判示する特段の事情」という。)があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される旨判示している。
(2)ア本件各弁済は,期限の利益喪失特約である本件特約の下でされたものであって,平成18年判決によれば,いずれも貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできないから,同項の規定の適用要件を欠き,制限超過部分の支払は有効な利息債務の弁済とはみなされない。
イそして,平成18年判決は,それまで下級審において判断が分かれていた期限の利益喪失特約の下での制限超過部分の支払の任意性について最高裁判所として示した初めての判断であって,その言渡し以前において,上記支払が任意性を欠くものではないとの解釈が最高裁判所の判例により裏付けられていたわけではないから,上告人が本件特約の下で本件各弁済に係る制限超過部分の支払を受領したことについて,平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,上告人は過払金の取得について民法704条の「悪意の受益者」であると認められる。

4 しかしながら,原審の上記3(2)のアの判断は是認することができるが,同イの判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 平成18年判決及び平成19年判決の内容は原審の判示するとおりであるが,平成18年判決が言い渡されるまでは,平成18年判決が示した期限の利益喪失特約の下での制限超過部分の支払(以下「期限の利益喪失特約下の支払」という。)は原則として貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできないとの見解を採用した最高裁判所の判例はなく,下級審の裁判例や学説においては,このような見解を採用するものは少数であり,大多数が,期限の利益喪失特約下の支払というだけではその支払の任意性を否定することはできないとの見解に立って,同項の規定の適用要件の解釈を行っていたことは,公知の事実である。平成18年判決と同旨の判断を示した最高裁平成16年(受)第424号同18年1月24日第三小法廷判決・裁判集民事219号243頁においても,上記大多数の見解と同旨の個別意見が付されている。
そうすると,上記事情の下では,平成18年判決が言い渡されるまでは,貸金業者において,期限の利益喪失特約下の支払であることから直ちに同項の適用が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,貸金業者が上記認識を有していたことについては,平成19年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。したがって,平成18年判決の言渡し日以前の期限の利益喪失特約下の支払については,これを受領したことのみを理由として当該貸金業者を悪意の受益者であると推定することはできない。
(2) これを本件についてみると,平成18年判決の言渡し日以前の被上告人の制限超過部分の支払については,期限の利益喪失特約下の支払であるため,支払の任意性の点で貸金業法43条1項の適用要件を欠き,有効な利息債務の弁済とはみなされないことになるが,上告人がこれを受領しても,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけでは悪意の受益者とは認められないのであるから,制限超過部分の支払について,それ以外の同項の適用要件の充足の有無,充足しない適用要件がある場合は,その適用要件との関係で上告人が悪意の受益者であると推定されるか否か等について検討しなければ,上告人が悪意の受益者であるか否かの判断ができないものというべきである。しかるに,原審は,上記のような検討をすることなく,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけで平成18年判決の言渡し日以前の被上告人の支払について上告人を悪意の受益者と認めたものであるから,原審のこの判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中,不当利得返還請求に関する部分のうち,上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そこで,前記検討を必要とする点等につき更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
なお,上告人は,取引履歴の開示拒絶の不法行為に基づく損害賠償請求に関する部分についても上告受理の申立てをしたが,同部分に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官中川了滋 裁判官今井功 裁判官古田佑紀 裁判官竹内行夫)

 

 

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最高裁平成18年1月13日第二小法廷判決・民集第60巻1号1頁(対シティズ)

2016-09-16

主     文

原判決を破棄する。
本件を広島高等裁判所に差し戻す。

 

理     由

第1 事案の概要

1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2) 被上告人は,平成12年7月6日,上告人A1に対し,300万円を,次の約定で貸し付け(以下「本件貸付け」という。),上告人A2は,同日,被上告人に対し,上告人A1の本件貸付けに係る債務について連帯保証をした。
ア 利息 年29%(年365日の日割計算)
イ 遅延損害金 年29.2%(年365日の日割計算)
ウ 返済方法 平成12年8月から平成17年7月まで毎月20日に60回にわたって元金5万円ずつを経過利息と共に支払う。
エ 特約 上告人A1は,元金又は利息の支払を遅滞したときには,当然に期限の利益を失い,被上告人に対して直ちに元利金を一時に支払う(以下「本件期限の利益喪失特約」という。)。
(3) 被上告人は,本件貸付けに係る契約を締結した際に,上告人A1に対し,「貸付及び保証契約説明書」及び「償還表」と題する書面を交付した。
貸付及び保証契約説明書には,利息の利率を利息制限法1条1項所定の制限利率を超える年29%とする約定が記載された後に,本件期限の利益喪失特約につき,「元金又は利息の支払いを遅滞したとき(中略)は催告の手続きを要せずして期限の利益を失い直ちに元利金を一時に支払います。」と記載され,期限後に支払うべき遅延損害金の利率を同法4条1項所定の制限利率を超える年29.2%とする約定が記載されていた。
(4) 上告人A1は,被上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙元利金計算書の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
被上告人は,上告人A1に対し,本件各弁済の都度,直ちに「領収書兼利用明細書」と題する書面(以下「本件各受取証書」という。)を交付した。
本件各受取証書には,貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和58年大蔵省
令第40号。以下「施行規則」という。)15条2項に基づき,法18条1項2号
所定の契約年月日の記載に代えて,契約番号が記載されていた。

2 本件は,被上告人が,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるから,利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超える部分の支払も有効な債務の弁済とみなされるなどと主張して,上告人らに対し,本件貸付けの残元本189万4369円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

3 原審は,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるとして,被上告人の請求を全部認容すべきものとした。

第2 上告代理人山口利明の上告受理申立て理由二(1)について

後記第4の2(2)のとおり,本件期限の利益喪失特約のうち,上告人A1が支払期日に利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超える部分(以下「制限超過部分」という。)の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は無効であり,上告人A1は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
しかしながら,法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,同項各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面をその相手方に対して交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を相手方に正確に知らしめることによって,後日になって当事者間にその内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解される。したがって,法17条1項及びその委任に基づき定められた施行規則13条1項は,飽くまでも当事者が合意した内容を正確に記載することを要求しているものと解するのが相当であり,当該合意が法律の解釈適用によって無効又は一部無効となる場合についても同様と解される。
そうすると,上告人A1と被上告人が合意した本件期限の利益喪失特約の内容を正確に記載している貸付及び保証契約説明書は,法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),施行規則13条1項1号ヌ(平成12年総理府令第148号による改正前のもの)所定の「期限の利益の喪失の定めがあるときは,その旨及びその内容」の記載に欠けるところはないというべきである。
以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

第3 同二(2)について

1 原審の判断は,次のとおりである。

施行規則15条2項は,貸金業者は,法18条1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項2号所定の契約年月日の記載に代えることができる旨規定しているのであり,契約年月日の記載がなくとも,契約番号の記載により,弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を特定するのに不足することはないから,契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は,法18条1項所定の事項の記載に欠けるところはない。

2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 法18条1項が,貸金業者は,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,同項各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない旨を定めているのは,貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図るためであるから,同項の解釈にあたっては,文理を離れて緩やかな解釈をすることは許されないというべきである。
同項柱書きは,「貸金業者は,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,内閣府令で定めるところにより,次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。」と規定している。そして,同項6号に,「前各号に掲げるもののほか,内閣府令で定める事項」が掲げられている。
同項は,その文理に照らすと,同項の規定に基づき貸金業者が貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに当該弁済をした者に対して交付すべき書面(以下「18条書面」という。)の記載事項は,同項1号から5号までに掲げる事項(以下「法定事項」という。)及び法定事項に追加して内閣府令(法施行当時は大蔵省令。後に,総理府令・大蔵省令,総理府令,内閣府令と順次改められた。)で定める事項であることを規定するとともに,18条書面の交付方法の定めについて内閣府令に委任することを規定したものと解される。したがって,18条書面の記載事項について,内閣府令により他の事項の記載をもって法定事項の記載に代えることは許されないものというべきである。
(2) 上記内閣府令に該当する施行規則15条2項は,「貸金業者は,法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。」と規定している。【要旨1】この規定のうち,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから,内閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。
(3)以上と異なる見解に立って,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は,同項所定の事項の記載に欠けるところはないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

第4 同二(3)について

1 原審の判断は,次のとおりである。

貸金業者において法43条1項の規定に基づき取得を容認され得る約定利息の支払を債務者が怠った場合に期限の利益を喪失する旨の合意は,何ら不合理なものとはいえず,また,債務者が,この合意により,約定利息の支払を強制されることになるということはできないから,上告人A1のした利息の制限額を超える額の金銭の支払は,同項にいう「利息として任意に支払った」ものということができる。

2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として支払った金銭の額が,利息の制限額を超える場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,その支払が任意に行われた場合に限って,例外的に,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,制限超過部分の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。
貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)等にかんがみると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきである(最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁,最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。
そうすると,法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解される(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)けれども,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
(2) 本件期限の利益喪失特約がその文言どおりの効力を有するとすると,上告人A1は,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになる上,残元本全額に対して年29.2%の割合による遅延損害金を支払うべき義務も負うことになる。このような結果は,上告人A1に対し,期限の利益を喪失する等の不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができず,【要旨2】本件期限の利益喪失特約のうち,上告人A1が支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同項の趣旨に反して無効であり,上告人A1は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
そして,本件期限の利益喪失特約は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれども,この特約の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
したがって,【要旨3】本件期限の利益喪失特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできないと解するのが相当である。
そうすると,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,上告人A1が任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

第5 結論
以上のとおりであるから,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を
原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井
功 裁判官 古田佑紀)

 

 

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最高裁平成21年11月9日第二小法廷判決・ 民集第63巻9号1987頁

2016-09-15

主文
1 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
2(1) 第1審判決中民法704条後段に基づく損害賠償請求に係る上告人敗訴部分を取り消す。
(2) 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
3 民法704条後段に基づく損害賠償請求に係る被上告人の附帯控訴を棄却する。
4 訴訟の総費用は,これを4分し,その3を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。

 

理由
上告代理人前田陽司,同長倉香織の上告受理申立て理由について
1 本件は,被上告人が,貸金業者であるA株式会社及び同社を吸収合併した上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の制限利率を超えて利息として支払われた部分を元金に充当すると,過払金が発生しており,かつ,それにもかかわらず,上告人が残元金の存在を前提とする支払の請求をし過払金の受領を続けた行為により被上告人が精神的苦痛を被ったと主張して,不当利得返還請求権に基づき,過払金合計1068万4265円の返還等を求めるとともに,民法704条後段に基づき,過払金の返還請求訴訟に係る弁護士費用相当額の損害賠償108万円とこれに対する遅延損害金の,同法709条に基づき,慰謝料及び慰謝料請求訴訟に係る弁護士費用相当額の損害賠償105万円とこれに対する遅延損害金の各支払を求める事案である。
なお,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還等を求める部分は,原審においてその訴えが取り下げられ,また,民法709条に基づき損害賠償の支払を求める部分については,同請求を棄却すべきものとした原判決に対する被上告人からの不服申立てがなく,当審における審理判断の対象とはなっていない。

2 原審は,次のとおり判断して,被上告人の民法704条後段に基づく損害賠償請求を認容すべきものとした。
民法704条後段の規定が不法行為に関する規定とは別に設けられていること,善意の受益者については過失がある場合であってもその責任主体から除外されていることなどに照らすと,同条後段の規定は,悪意の受益者の不法行為責任を定めたものではなく,不当利得制度を支える公平の原理から,悪意の受益者に対し,その責任を加重し,特別の責任を定めたものと解するのが相当である。したがって,悪意の受益者は,その受益に係る行為に不法行為法上の違法性が認められない場合であっても,民法704条後段に基づき,損害賠償責任を負う。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
不当利得制度は,ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に,法律が公平の観念に基づいて受益者にその利得の返還義務を負担させるものであり(最高裁昭和45年(オ)第540号同49年9月26日第一小法廷判決・民集28巻6号1243頁参照),不法行為に基づく損害賠償制度が,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものである(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)のとは,その趣旨を異にする。不当利得制度の下において受益者の受けた利益を超えて損失者の被った損害まで賠償させることは同制度の趣旨とするところとは解し難い。
したがって,民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて,不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず,悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではないと解するのが相当である。

4 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。これと同旨をいう論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,上告人が残元金の存在を前提とする支払の請求をし過払金の受領を続けた行為が不法行為には当たらないことについては,原審が既に判断を示しており,その判断は正当として是認することができるから,被上告人の民法704条後段に基づく損害賠償請求は理由がないことが明らかである。よって,被上告人の民法704条後段に基づく弁護士費用相当額の損害賠償108万円及びこれに対する遅延損害金の請求を107万1247円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却した第1審判決のうち上告人敗訴部分を取り消し,同部分に関する被上告人の請求を棄却し,上記請求に係る被上告人の附帯控訴を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官今井功 裁判官中川了滋 裁判官古田佑紀 裁判官竹内行夫)

 

 

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最高裁平成17年7月19日第三小法廷判決・民集第59巻6号1783頁(対キャスコ(現プライメックスキャピタル))

2016-09-14

主    文

原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理    由

上告代理人井上元,同中井洋恵の上告受理申立て理由について

1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む貸金業者である。
(2) 被上告人は,第1審判決別紙「利息制限法による計算書」記載のとおり,平成4年2月26日から平成14年10月10日まで,109回にわたって上告人に金銭を貸し付け,129回にわたって上告人から弁済を受けた。
(3) 上記各貸付け(以下「本件各貸付け」という。)の約定利率は,利息制限法1条1項所定の制限利率を超過している。
(4) 中井洋恵弁護士は,平成14年10月,上告人から債務整理を依頼され,同年11月1日付け通知書で,被上告人に対し,上告人の代理人となる旨の通知をするとともに,上告人と被上告人との間の全取引の明細が整わないと返済の計画を立てることができず,返済案の提示が遅れる旨付記した上,過去の全取引履歴の開示を要請した。しかし,被上告人は,取引履歴を全く開示しなかった。
(5) 中井弁護士は,同月25日,同弁護士の事務所の事務員(以下「事務員」という。)に指示して,債権届を至急提出するよう被上告人に電話連絡をさせた。その際,被上告人の担当者は,和解を前提とする話合いを申し出たが,事務員は,先に取引履歴の開示を求める旨返事をした。
(6) 中井弁護士は,同年12月10日及び平成15年1月10日にも,事務員に上記電話連絡と同様の電話連絡をさせ,さらに,同年2月12日付け書面及び同年3月13日付け取引履歴開示請求書により全取引履歴の開示を求めたが,被上告人はこれに応じなかった。
(7) 上記取引履歴開示請求書には,井上元弁護士も上告人の代理人になること,同年3月20日までに取引履歴を開示するよう求めることが記載されていたので,被上告人の担当者は,同月14日,井上弁護士に電話をして和解を申し出たが,同弁護士は,早急に取引履歴の開示を求めると言ってこれを断り,同年4月4日の電話で,被上告人に対して更に取引履歴の開示を求めた。これに対して,被上告人の担当者は,「みなし弁済の規定の適用を主張する。和解交渉をさせていただくが,取引履歴の開示はできない。」 と答えた。
(8) 井上弁護士と被上告人の担当者との間では,同月15日,16日にも電話で同様のやり取りがあり,結局,上告人は,同月18日,本件訴訟を提起した。
(9) 本件訴訟は,上告人が,被上告人に対し,本件各貸付けにつき支払われた利息について,利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求めるとともに,貸金業者である被上告人は,貸金業法等の法令又は契約関係から生ずる信義誠実の原則に基づき取引履歴の開示義務があるのに,合理的な理由なく上告人からの開示要求に応じなかったものであり,そのために上告人の債務整理が遅れ,上告人は精神的に不安定な立場に置かれたとして,不法行為による慰謝料の支払を求めるものであるが,過払金の返還請求については,第1審で認容され,被上告人はこれに対して不服を申し立てなかった。
(10) 被上告人は,本件訴訟(第1審)において上告人との間の全取引履歴の開示をした。

2 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断し,上告人の慰謝料請求を棄却すべきものとした。
(1)貸金業法その他の法令上,貸金業者の取引履歴の開示義務を定めた明文規定はない。
貸金業法19条は,取引履歴の開示義務を定めたものではなく,金融庁事務ガイドライン3-2-3は,行政上の監督に関する指針と考えられるもので,法的な権利義務を定めたものとは理解できないし,その内容も一般的な開示義務があるとしたものとは理解し難い。
また,貸金業者と債務者との間には,契約関係があり,これに基づく権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行うべきものであるが,信義誠実の原則から,当然に,取引履歴の開示義務が導かれると解することも困難である。
(2) 債務者の開示要求に対し,貸金業者が取引経過に関する情報を開示しないことが,信義誠実の原則に著しく反し,社会通念上容認できないものとして,不法行為上,違法と評価される場合もあり得る。
しかし,本件の場合,上告人は,債務を確定し債権者への平等弁済等を図るためではなく,過払金返還請求をするために,取引履歴の不開示による上告人の債務整理手続への影響等の個別事情は一切明らかにせず,取引履歴の開示要求をしたものであり,これに応じなかった被上告人の行為をもって,信義則に著しく反し,社会通念上容認できないものとして,不法行為上違法と評価され,損害賠償義務が発生すると断定することは困難である。
(3) 債務整理が遅れたことによる上告人の精神的負担は,消費貸借という取引行為に起因するものであるから,基本的には,過払金返還請求(遅延損害金を含む。)が認められることにより損害がてん補される関係に立つものというべきであり,それを超えた特別の精神的損害が発生するような事情は見当たらない。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 貸金業法19条及びその委任を受けて定められた貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)16条は,貸金業者に対して,その営業所又は事務所ごとに,その業務に関する帳簿(以下「業務帳簿」という。)を備え,債務者ごとに,貸付けの契約について,契約年月日,貸付けの金額,貸付けの利率,弁済金の受領金額,受領年月日等,貸金業法17条1項及び18条1項所定の事項(貸金業者の商号等の業務帳簿に記載する意味のない事項を除く。)を記載し,これを保存すべき義務を負わせている。そして,貸金業者が,貸金業法19条の規定に違反して業務帳簿を備え付けず,業務帳簿に前記記載事項を記載せず,若しくは虚偽の記載をし,又は業務帳簿を保存しなかった場合については,罰則が設けられている(同法49条7号。貸金業法施行時には同条4号)。
(2) 貸金業法は,貸金業者は,貸付けに係る契約を締結するに当たり,17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)を債務者に交付し,弁済を受けた都度,直ちに18条1項所定の事項を記載した書面(以下,17条書面と併せて 「17条書面等」という。)を弁済者に交付すべき旨を定めている(17条,18条)が,長期間にわたって貸付けと弁済が繰り返される場合には,特に不注意な債務者でなくても,交付を受けた17条書面等の一部を紛失することはあり得るものというべきであり,貸金業法及び施行規則は,このような場合も想定した上で,貸金業者に対し,同法17条1項及び18条1項所定の事項を記載した業務帳簿の作成・備付け義務を負わせたものと解される。
(3) また,貸金業法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払ったものについては,利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超えるものであっても,17条書面等の交付があった場合には有効な利息債務の弁済とみなす旨定めており(以下,この規定によって有効な利息債務の弁済とみなされる弁済を「みなし弁済」という。),貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限利率を超える約定利率で貸付けを行うときは,みなし弁済をめぐる紛争が生ずる可能性がある。
(4) そうすると,貸金業法は,罰則をもって貸金業者に業務帳簿の作成・備付け義務を課すことによって,貸金業の適正な運営を確保して貸金業者から貸付けを受ける債務者の利益の保護を図るとともに,債務内容に疑義が生じた場合は,これを業務帳簿によって明らかにし,みなし弁済をめぐる紛争も含めて,貸金業者と債務者との間の貸付けに関する紛争の発生を未然に防止し又は生じた紛争を速やかに解決することを図ったものと解するのが相当である。金融庁事務ガイドライン3-2-3(現在は3-2-7)が,貸金業者の監督に当たっての留意事項として,「債務者,保証人その他の債務の弁済を行おうとする者から,帳簿の記載事項のうち,当該弁済に係る債務の内容について開示を求められたときに協力すること。」と記載し,貸金業者の監督に当たる者に対して,債務内容の開示要求に協力するように貸金業者に促すことを求めている(貸金業法施行時には,大蔵省銀行局長通達(昭和58年9月30日付け蔵銀第2602号)「貸金業者の業務運営に関する基本事項について」第2の4(1)ロ(ハ)に,貸金業者が業務帳簿の備付け及び記載事項の開示に関して執るべき措置として,債務内容の開示要求に協力しなければならない旨記載されていた。)のも,このような貸金業法の趣旨を踏まえたものと解される。
(5) 以上のような貸金業法の趣旨に加えて,一般に,債務者は,債務内容を正確に把握できない場合には,弁済計画を立てることが困難となったり,過払金があるのにその返還を請求できないばかりか,更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど,大きな不利益を被る可能性があるのに対して,貸金業者が保存している業務帳簿に基づいて債務内容を開示することは容易であり,貸金業者に特段の負担は生じないことにかんがみると,【要旨】貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきである。
そして,貸金業者がこの義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したときは,その行為は,違法性を有し,不法行為を構成するものというべきである。
(6) 前記事実関係によれば,上告人の取引履歴の開示要求に上記特段の事情があったことはうかがわれない。そして,上告人は,債務整理を弁護士に依頼し,被上告人に対し,弁護士を通じて,半年近く,繰り返し取引履歴の開示を求めたが,被上告人がこれを拒絶し続けたので,上告人は,その間債務整理ができず,結局,本件訴訟を提起するに至ったというのであるから,被上告人の上記開示拒絶行為は違法性を有し,これによって上告人が被った精神的損害については,過払金返還請求が認められることにより損害がてん補される関係には立たず,不法行為による損害賠償が認められなければならない。

4 以上と異なる見解に立って,上告人の被上告人に対する請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,慰謝料の額について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)

 

 

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最高裁平成22年4月20日第三小法廷判決・民集第64巻3号921頁(対CFJ)

2016-09-13

主 文

原判決中,上告人の敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理 由

上告代理人金高望ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

1 本件は,被上告人との間で締結した基本契約に基づき,継続的に金銭の借入れと弁済を繰り返した上告人が,各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の制限を超えて利息として支払われた部分(以下,この部分を「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生するとして,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金71万1523円の返還等を求める事案である。
本件では,取引が当初20万円の借入れから始まり,その後新たな借入れと弁済が繰り返されることにより借入残高に増減が生じたことから,このように借入残高が増減する取引における過払金の計算上,何をもって利息制限法1条1項にいう「元本」の額と解すべきかが争われている。

2 原審が確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,被上告人との間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結し,これに基づき,平成9年12月18日から平成19年12月3日までの間,原判決別紙計算書の「年月日」欄記載の各年月日に,「借入金額」欄記載の各金員を借り入れ,「弁済額」欄記載の各金員を支払った(以下「本件取引」という。)。
(2)本件基本契約において定められた利息の利率は,利息制限法1条1項所定の制限利率を超えるものであった。
(3)本件取引における弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものであった。
(4)本件取引開始当初の借入金額は20万円であり,その後も,各弁済金のうち利率を年1割8分として計算した金額を超えて利息として支払われた部分を本件基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算すると,各借入れの時点における残元本額(従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額)は,100万円未満の金額で推移し,平成17年12月6日の借入れの時点では,残元本額が10万円未満となった。

3 原審は,上記の事実関係の下で,次のとおり判断し,本件取引に適用される制限利率を平成17年12月5日までは年1割8分,同月6日以降は年2割であるとして,上告人の請求を過払金67万9654円の返還等を求める限度で認容した。
(1)基本契約に基づき継続的に借入れと弁済が繰り返される金銭消費貸借取引において,基本契約に定められた借入極度額は,当事者間で貸付金合計額の上限として合意された数値にすぎず,これをもって,利息制限法1条1項所定の「元本」の額と解する根拠はない。そして,上記の取引の過程で新たな借入れがされた場合,制限利率を決定する基準となる「元本」の額は,従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額をいい,従前の借入金残元本の額は,約定利率ではなく制限利率により弁済金の充当計算をした結果得られた額と解するのが相当である。
(2)本件取引においては,取引の開始から平成17年12月6日の借入れが行われる前までは,各借入れの時点における上記意味での元本の額は終始10万円以上100万円未満の金額で推移しており,その間の取引については,年1割8分の制限利率を適用すべきである。
(3)しかし,平成17年12月6日の借入れの時点では,上記意味での元本の額は10万円未満となるに至ったのであるから,同日以降の取引については,年2割の制限利率を適用するのが相当である。

4 しかしながら,原審の上記3の判断のうち,(1)及び(2)は是認することができるが,(3)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合には,各借入れの時点における従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項にいう「元本」の額に当たると解するのが相当であり,同契約における利息の約定は,その利息が上記の「元本」の額に応じて定まる同項所定の制限を超えるときは,その超過部分が無効となる。この場合,従前の借入金残元本の額は,有効に存在する利息の約定を前提に算定すべきことは明らかであって,弁済金のうち制限超過部分があるときは,これを上記基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算することになる。
そして,上記取引の過程で,ある借入れがされたことによって従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項所定の各区分における上限額を超えることになったとき,すなわち,上記の合計額が10万円未満から10万円以上に,あるいは100万円未満から100万円以上に増加したときは,上記取引に適用される制限利率が変更され,新たな制限を超える利息の約定が無効となるが,ある借入れの時点で上記の合計額が同項所定の各区分における下限額を下回るに至ったとしても,いったん無効となった利息の約定が有効になることはなく,上記取引に適用される制限利率が変更されることはない。
(2)これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件取引開始当初の借入金額は20万円であったというのであるから,この時点で本件取引に適用される制限利率は年1割8分となる。そして,各弁済金のうち制限超過部分を本件基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算すると,その後,各借入れの時点における従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額は100万円未満の金額で推移し,平成17年12月6日の借入れの時点に,上記の合計額が10万円未満となったというのであるが,これが10万円未満に減少したからといって,適用される制限利率が年2割に変更されることはない。
そうすると,同日以降の取引に年2割の制限利率を適用するのが相当であるとした原審の判断には,利息制限法1条1項の解釈適用の誤りがあり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨のうち,この趣旨をいう部分は理由がある。

5 以上によれば,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れず,上記の見地に立って過払金額を確定させるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官那須弘平 裁判官藤田宙靖 裁判官堀籠幸男 裁判官田原睦夫 裁判官近藤崇晴)

 

 

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