2.自己破産
破産のメリット
自己破産のメリットは、全財産(生活に必要最小限の財産を除く。)を清算した後とはいえ、免責許可決定を得ることができれば、債務(非免責債権を除く。)が全額免責されることです。
これによりマイナスではなくゼロからの再スタートが可能となります。
なお、何が「生活に必要最小限の財産」にあたるかは、各裁判所により異なり、一概に言えません。
下記のような免責不許可事由(破産法252条)がない場合、免責許可決定がなされます。
1.財産を隠し、破壊し、または不当に価値を減少させる行為をしたこと
2.換金目的で、クレジットで商品購入して換金したこと
3.他の債権者を害することを知りながら、知人・親族など一部の債権者のみを不当に優遇して返済すること
4.浪費・ギャンブルが主な原因で過大な借金をつくってしまったこと
5.借金を返済する見込みがない状況だと知りながら、そうではないと偽って借金をしたこと
6.虚偽の債権者一覧表を裁判所に提出したこと
7.破産手続を行う裁判所の調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと
8.過去に免責許可決定を受け、その確定した日から7年を経過していない免責の申立て
など
免責不許可事由があっても必ずしも免責不許可になるわけではなく、裁判所の裁量により免責許可決定がなされることがほとんどです。
かりに免責許可にならなくても、破産手続開始決定によりほとんどの債権者は取立てをやめ、債権について損金処理を行いますから、自己破産をする意味はあります。
参照条文 破産法252条1項及び同条2項
(免責許可の決定の要件等)
第二百五十二条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
四 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
五 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
六 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
七 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
八 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
九 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
十 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法 (平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項 に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第二百三十五条第一項 (同法第二百四十四条 において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
十一 第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。
2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
破産のデメリット
1.「破産者」となります。
裁判所の破産手続開始決定がなされた段階で、「破産者」となります。
ただし、免責許可決定等を受ければ「復権」(「破産者」でなくなること)します(破産法255条)。免責許可決定を受けなかった場合、弁済・免除・消滅時効などによって、債務の全部についてその責任を免れたときは、申立てにより「復権」します(破産法256条)。
2.資格制限
「破産者」の間、以下の資格に就くことができません。
弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、公証人、司法書士、行政書士、公安委員会委員、検察審査員、公正取引委員会委員、不動産鑑定士、土地家屋調査士、宅地建物取引業者、商品取引所会員、証券会社外務員、有価証券投資顧問業者、質屋、古物商、生命保険募集員、損害保険代理店警備業者、警備員、建設業者、建設工事紛争審査委員会委員、風俗営業者、風俗営業所の管理者等(こちらのサイトが参考になります。)
後見人、後見監督人、保佐人、遺言執行者等
また、破産開始決定を受けたことは代理権の消滅・委任の終了事由にあたりますので、株式会社の取締役・監査役は、破産開始決定時に退任します。ただし、かりに復権を得なくても、株主総会で改めて取締役・監査役に選任することは可能です。
3.住所・氏名、破産手続開始決定、免責(不)許可決定がなされたことが「官報」に掲載されます。
しかし、「官報」の破産関連記事を読んでいる人はあまりいませんから、周りに気づかれる恐れはほとんどないでしょう。
4.破産開始決定後免責許可決定がなされないことが明らかになった段階で、市町村備付の破産者名簿に記載されます。
第三者が自由に閲覧できる資料ではないので、心配する必要はないでしょう。
5.不動産・高級車等高額な財産は、総債権者のために換価処分されます。
6.同時廃止でない場合(管財事件の場合)、財産調査・換価・配当等のために破産管財人が選任されます。
この場合、不動産、自動車等高額動産、債権(預金を含む)等の財産処分権が破産管財人に移り、自由に処分できなくなります。
また、長期旅行・住居移転に裁判所の許可が必要になります。破産者宛の郵便はすべて破産管財人に配達され、破産管財人が開封します。
もっとも、破産開始決定後に取得した財産(例えば給料など)は、破産者が自由に処分可能です。
7.信用情報機関に破産の事実が最長5年間(銀行関係は最長10年間)登録され、借入れ、クレジットカードの作成等信用取引が困難となります。もっとも、任意整理をした場合でも信用事故として最長5年間登録され、やはり信用取引が困難となります。
免責許可決定の効果
1. 免責許可決定が確定すると、破産者は、破産手続による配当を除き、非免責債権以外のすべての破産債権について、その責任を免れます(破産法253条)。
2. 債務者が免責されても、保証人の責任、抵当権など担保権の効力に影響はありません。
したがって、ローンが残っている自動車などは、通常、所有権留保などの担保権がついているので、ローン会社が引き揚げます。保証人が債権者に弁済した場合、破産者に求償する権利については免責されます。
非免責債権は以下のとおりです。
1. 租税等の請求権
2. 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
3. 破産者が故意または重大な過失によって加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
4. 夫婦間の協力および扶助の義務(民法752条)に係る請求権
5. 婚姻費用分担義務(民法760条)に係る請求権
6. 子の監護に関する義務(同法766条)に係る請求権
7. 親族間の扶養の義務(民法877条ないし880条)に係る請求権
8. 4~7に類する義務であって、契約上のもの
9. 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権および使用人の預り金の返還請求権
10.破産者が知りながら債権者一覧表に記載しなかった請求権
11.罰金等の請求権
なお、財団債権であって、非免責債権と同質のものも免責されません。
10.が重要で、債権者一覧表に記載漏れした債権者について免責されないことがあるので、債権者一覧表にはすべての債権者を記載する必要があります。
自己破産とは
自己破産とは、借金を自分の全財産を充てても返済することができなくなった場合に、債務者自らが破産手続の開始を裁判所に申し立てることです。
破産制度とは、総債権者のために債務者の財産を公平に清算しつつ、債務者について経済生活の新規やり直しの機会を確保することを目的とした裁判制度です。
破産制度は①債務者の財産を調査・清算する破産手続と②残債務に関する免責手続とに分かれます。
1)破産手続
債務者の全財産(生活に必要最小限の財産を除く。)を調査・換価して、換価した財産を債権者全員に対して債権額に応じて公平に配当します。
2)免責手続
破産手続終結後も残った借金について、免責不許可事由がないなど債務を免責することが適当な場合、免責許可決定がなされます。
破産手続の流れ
破産管財人が選任される場合(いわゆる管財事件)の手続きの流れ
破産手続開始の申立て
↓ 破産者審尋
破産手続開始決定
↓ 破産管財人の選任(破産者の財産・免責不許可事由の調査、財産の換価・配当を行う人。)
破産者の財産調査、債権届出
↓ 債権者集会が開かれます。
換価すべき財産の換価・配当
↓
破産手続廃止
↓
免責手続
↓ 免責審尋
免責(不)許可決定
債務者に換価・配当すべき高額財産がなく、さらに財産・免責不許可事由の調査をする必要性もない場合、破産管財人を選任して行うべき手続がないことから、破産手続開始決定と同時に破産手続廃止決定がなされます。これを同時廃止といいます。
同時廃止の場合の手続きの流れ
破産手続開始の申立て
↓ 破産者審尋
破産手続開始決定及び破産手続の廃止(同時廃止)
↓
免責手続
↓ 免責審尋
免責(不)許可決定
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