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最高裁平成23年12月1日第一小法廷判決・集民第238号189頁(対CFJ)

2016-08-31

同旨の判例として、最高裁平成23年(受)第407号同年12月1日第一小法廷判決(対プロミス)、最高裁平成23年(受)第1592号同年12月15日第一小法廷判決(対アコム)がある。

主 文
1 原判決を破棄する。
2 被上告人の控訴を棄却する。
3 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人田中庄司ほかの上告受理申立て理由第2について

1 本件は,上告人が,A及び同社を吸収合併した被上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引と,B及び同社から債権譲渡を受けた被上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引について,各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しており,かつ,被上告人は過払金の取得が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金及び民法704条前段所定の利息等の支払を求める事案である。
本件の争点は,被上告人が過払金の取得について民法704条の「悪意の受益者」であるか否かである。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1) 被上告人,A及びBは,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律。以下,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2) Aは,上告人との間で,平成8年8月13日から平成14年12月30日までの間,原判決別紙「計算書1 XA取引」の「貸付金額」欄及び「入金額」欄記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引を行った。被上告人は,平成15年1月1日にAを吸収合併して上記金銭消費貸借取引に係る貸主の地位を承継し,引き続き上告人との間で,同月31日から平成21年11月1日までの間,同別紙の「貸付金額」欄及び「入金額」欄記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引を行った(以下,A及び被上告人と上告人との間の上記取引を「第1取引」という。)。

(3) Bは,上告人との間で,平成9年2月18日から平成14年4月4日までの間,原判決別紙「計算書2 XB取引」の「貸付金額」欄及び「入金額」欄記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引を行った。被上告人は,同年5月2日にBから上記金銭消費貸借取引に係る上告人に対する債権の譲渡を受け,引き続き上告人との間で,同月7日から平成21年11月1日までの間,同別紙の「貸付金額」欄及び「入金額」欄記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引を行った(以下,B及び被上告人と上告人との間の上記取引を「第2取引」といい,第1取引と第2取引を併せて「本件各取引」という。)。

(4) 本件各取引は,基本契約の下で,借入限度額の範囲内で借入れと返済を繰り返すことを予定して行われたもので,その返済の方式は,全貸付けの残元利金について,毎月の返済期日に最低返済額を支払えば足りるとする,いわゆるリボルビング方式の一つである。
本件各取引において貸金業法(平成18年法律第115号による改正前のもの。 以下同じ。)17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)として上告人に交付された各書面には,同項6号に掲げる「返済期間及び返済回数」や貸金業法施行規則(平成19年内閣府令第79号による改正前のもの。 以下同じ。なお,同改正前の題名は貸金業の規制等に関する法律施行規則)13条1項1号チに掲げる各回の「返済金額」(以下,「返済期間及び返済回数」と各回の「返済金額」を併せて「返済期間,返済金額等」という。)に代わるものとして,平成16年9月までは,次回の最低返済額とその返済期日の記載がされていたにとどまり,同年10月以降になって,個々の貸付けの時点での残元利金について最低返済額を毎月の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等の記載(以下「確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載」という。)がされるようになった。

(5) 本件各取引において上告人がした各弁済(以下「本件各弁済」という。) のうち制限超過部分の支払は,貸金業法43条1項の適用要件を欠き,有効な利息の債務の弁済とはみなされない。制限超過部分を各貸付金の元本に充当すると,第1取引については平成13年2月1日以降,第2取引については平成16年6月30日以降,終始過払の状態が継続していた。

3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断し,被上告人は民法704条の「悪意の受益者」であると認めることができないとして,上告人の請求のうち被上告人の控訴に係る部分を棄却した。

(1) 貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情(以下「平成19年判決の判示する特段の事情」という。)があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を受領した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される(最高裁平成17年(受)第1970号同19年7月13日第二小法廷判決・民集61巻5号1980頁)。

(2) リボルビング方式による貸付けについては,貸金業者において,個々の貸付けの際に,17条書面として借主に交付する書面に,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をすべき義務があり,基本契約書の記載と各貸付けの都度借主に交付された書面の記載とを併せても,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がないときは,17条書面の交付があったということはできない旨を判示した最高裁平成17年(受)第560号同年12月15日第一小法廷判決・民集59巻10号2899頁(以下「平成17年判決」という。)が言い渡されるまでは,17条書面に記載すべき事項について下級審の裁判例が分かれており,次回の最低返済額とその返済期日が記載されていれば足りるとする裁判例も相当程度存在し,監督官庁が貸金業法17条1項各号に掲げる事項のうち特定し得る事項のみ 記載すれば足りると読むこともできる通達を出していた。 上記事情の下では,平成17年判決が言い渡されるまでは,貸金業者において,リボルビング方式の貸付けにつき借主に17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がないことから直ちに貸金業法43条1項の要件が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,被上告人及びAが上記認識を有していたことについては,平成19年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。

(3) そして,本件各弁済のうち制限超過部分の支払について,貸金業法43条1項のその余の要件との関係でも,被上告人を悪意の受益者であると推定することはできず,ほかに被上告人が悪意の受益者であると認めるに足りる証拠はない。なお,被上告人とBとの間で前記の債権譲渡がされた時点では,第2取引につき過払金は発生しておらず,Bの認識等は,本件各取引における過払金の発生とは関係がない。

4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 貸金業法17条1項6号及び貸金業法施行規則13条1項1号チが17条書面に返済期間,返済金額等の記載をすることを求めた趣旨・目的は,これらの記載により,借主が自己の債務の状況を認識し,返済計画を立てることを容易にすることにあると解される。リボルビング方式の貸付けがされた場合において,個々の貸付けの時点で,上記の記載に代えて次回の最低返済額及びその返済期日のみが記載された書面が17条書面として交付されても,上記の趣旨・目的が十全に果たされるものではないことは明らかである反面,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をすることは可能であり,かつ,その記載があれば,借主は,個々の借入れの都度,今後,追加借入れをしないで,最低返済額を毎月の返済期日に返済していった場合,いつ残元利金が完済になるのかを把握することができ,完済までの期間の長さ等によって,自己の負担している債務の重さを認識し,漫然と借入れを繰り返すことを避けることができるのであるから,これを記載することが上記の趣旨・目的に沿うものであることは,平成17年判決の言渡し日以前であっても貸金業者において認識し得たというべきである。
そして,平成17年判決が言い渡される前に,下級審の裁判例や学説において,リボルビング方式の貸付けについては,17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用があるとの見解を採用するものが多数を占めていたとはいえないこと,上記の見解が貸金業法の立法に関与した者によって明確に示されていたわけでもないことは,当裁判所に顕著である。
上記事情の下では,監督官庁による通達や事務ガイドラインにおいて,リボルビング方式の貸付けについては,必ずしも貸金業法17条1項各号に掲げる事項全てを17条書面として交付する書面に記載しなくてもよいと理解し得ないではない記載があったとしても,貸金業者が,リボルビング方式の貸付けにつき,17条書面として交付する書面には,次回の最低返済額とその返済期日の記載があれば足り,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用が否定されるものではないとの認識を有するに至ったことがやむを得ないということはできない。
そうすると,リボルビング方式の貸付けについて,貸金業者が17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をしない場合は,平成17年判決の言渡し日以前であっても,当該貸金業者が制限超過部分の受領につき貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有することに平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,当該貸金業者は,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。

(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件各取引において17条書面として上告人に交付された各書面には,平成16年9月までは,次回の最低返済額とその返済期日の記載があったにとどまり,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなかったというのであるから,被上告人又はAにおいて平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,被上告人及びAは,この時期までに本件各取引から発生した過払金の取得につき悪意の受益者であると推定されるものというべきであり,この推定を覆すべき事情は見当たらない。
そして,同年10月以降は,本件各取引において17条書面として上告人に交付された各書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がされるようになったが,それより前から本件各取引は継続して過払の状態となり貸金債務は存在していなかったというのであるから,同月以降は,利息が発生する余地はなく,この時期にされた制限超過部分の支払につき貸金業法43条1項を適用してこれを有効な利息の支払とみなすことができないことは明らかである。そうすると,本件各取引につき,同月以降,17条書面として交付された書面に上記の記載があったとしても,被上告人がそれまでに発生した過払金の取得につき悪意の受益者である以上,この時期に発生した過払金の取得についても悪意の受益者であることを否定することはできない
よって,被上告人は,本件各取引における過払金の取得について民法704条の「悪意の受益者」であるというべきである。

5 以上によれば,被上告人は悪意の受益者であると認めることができないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
そして,以上説示したところによれば,上告人の請求のうち被上告人の控訴に係る部分は理由があり,これを認容した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官宮川光治 裁判官櫻井龍子 裁判官金築誠志 裁判官横田尤孝 裁判官白木 勇)

 

 

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