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最高裁平成21年9月4日第二小法廷 判決・民集第63巻7号1445頁

2016-08-30

主文

原判決中予備的請求に関する部分についての本件上告を棄却する。
その余の本件上告を却下する。
上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小澤克介の上告受理申立て理由について

1 本件は,上告人が,貸金業者である被上告人に対し,主位的に,取引期間を異にする二つの基本契約に基づき行われた継続的な金銭消費貸借取引を一連のものとみて,上記各取引に係る各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の制限利率を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元金に充当すると,過払金が発生しており,かつ,被上告人は過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知っていたから悪意の受益者に当たると主張して,不当利得返還請求権に基づき,上記過払金の返還及び民法704条前段所定の利息の支払を求めるとともに,予備的に,被上告人が過払金を受領し続けた行為は不法行為を構成すると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,上記過払金相当額の損害の賠償及び遅延損害金の支払を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律。以下,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2)上告人は,昭和55年11月12日被上告人との間で,極度額の範囲内,で継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約を締結した上,これに基づき,同日から平成9年1月13日までの間,原判決別紙計算書3「借入金額」欄記載の金員合計116万8670円を借り入れ,同計算書「弁済額」欄記載の金員を弁済した(以下,この間の取引を「第1取引」という。)。
第1取引における利息の約定は年47.45%ないし年36.47%であり,上記各弁済金のうち制限超過部分を元金に充当すると,昭和60年9月2日以降過払金が発生し,その額は,第1取引の最終日である平成9年1月13日の時点において266万0791円を下回ることはない。
(3)上告人は,平成16年9月29日,被上告人との間で,第1取引と同様の基本契約を改めて締結した上,これに基づき,同日から平成19年1月5日までの間,原判決別紙計算書4「借入金額」欄記載の金員合計62万3000円を借り入れ,同計算書「弁済額」欄記載の金員を弁済した(以下,この間の取引を「第2取引」という。)。
第2取引の最終日である平成19年1月5日の時点において貸金残元金があり,第2取引に基づく過払金は発生していない。

3 原審は,上記事実関係の下において,第1取引と第2取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することはできず,かつ,第1取引に基づいて発生した過払金に係る不当利得返還請求権の消滅時効が完成したと判断して上告人の主位的請求を棄却すべきものとするとともに,被上告人が過払金を受領し続けた行為が違法であるとはいえないと判断して上告人の予備的請求も棄却した。所論は,上告人の予備的請求を棄却した原審の上記判断の法令違反をいうものである。

4 そこで検討するに,一般に,貸金業者が,借主に対し貸金の支払を請求し,借主から弁済を受ける行為それ自体は,当該貸金債権が存在しないと事後的に判断されたことや,長期間にわたり制限超過部分を含む弁済を受けたことにより結果的に過払金が多額となったことのみをもって直ちに不法行為を構成するということはできず,これが不法行為を構成するのは,上記請求ないし受領が暴行,脅迫等を伴うものであったり,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたりしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られるものと解される。この理は,当該貸金業者が過払金の受領につき,民法704条所定の悪意の受益者であると推定される場合においても異なるところはない。

本件において,被上告人の上告人に対する貸金の支払請求ないし上告人からの弁済金の受領が,暴行,脅迫等を伴うものであったことはうかがわれず,また,第1取引に基づき過払金が発生した当時,貸金業法43条1項(平成18年法律第115号による改正前のもの)により,制限超過部分についても一定の要件の下にこれを有効な利息債務の弁済とみなすものとされており,しかも,その適用要件の解釈につき下級審裁判例の見解は分かれていて,当審の判断も示されていなかったことは当裁判所に顕著であって,このことからすると,被上告人が,上記過払金の発生以後,貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのにあえてその請求をしたということもできず,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠くものであったとはいえない。したがって,被上告人が民法704条所定の悪意の受益者であると推定されるとしても,被上告人が過払金を受領し続けた行為は不法行為を構成するものではない。
原審の前記判断は,これと同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。
なお,上告人は主位的請求に関する部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分についての上告を却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官今井功 裁判官中川了 滋裁判官古田佑紀 裁判官竹内行夫)

 

 

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