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最高裁昭和43年10月29日第三小法廷判決・ 民集第22巻10号2257頁

2016-12-02

主    文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理    由

上告代理人板井一治名義の上告理由第一点について。

金銭を目的とする消費貸借上の債務者が、利息制限法所定の制限をこえる利息、損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は強行法規である同法一条、四条の各一項によつて無効とされ、その部分の債務は存在しないのであるから、その部分に対する支払は弁済の効力を生じないものである。したがつて、本件のように数口の貸金債権が存在し、その弁済の充当の順序について当事者間に特約が存在する場合においては、右債務の存在しない制限超過部分に対する充当の合意は無意味で、その部分の合意は存在しないことになるから、右超過部分に対する弁済は、充当の特約の趣旨に従つて次順位に充当されるべき債務であつて有効に存在するものに充当されることになるものと解すべきである。右のような場合における充当の関係は、法律問題に属するから、これについて所論のように当事者から特別の申立ないし抗弁が提出されることを要するものではないと解するのが相当である。
本件において、原審は、当事者の主張に基づき、本件貸金債権を含む上告人の被上告人に対する三口の貸金債権の約定利息の利率はすべて利息制限法所定の制限をこえていること、被上告人から上告人に対する弁済金の支払はすべて任意になされたこと、上告人と被上告人との間には弁済の充当の順序について原判示の特約が存在すること、を確定したのであるから、被上告人の特別な主張をまつまでもなく、被上告人から支払われた弁済金については、右特約の趣旨に従つて、利息制限法所定の範囲内で、順次、利息、遅延損害金の弁済に充当されたうえ、その余は当該債務の元本に充当されたものとした原判決の判断は正当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について。

弁論主義のもとにおいては、請求の当否を決するために必要な主要事実は、当事者の弁論にあらわれないかぎり、その事実を判決の基礎とすることは許されないけれども、当事者の弁論にあらわれた以上、その陳述がいずれの当事者によつてなされたかを問わないし、その事実が確定されれば、これに対する法律効果の判断は裁判所の職責に属するから、裁判所は、右事実を判決の基礎として斟酌することができるのである。
本件についてこれをみると、所論本件貸金債権以外の三口の債権の存在および上告人と被上告人との間の右債権についての弁済関係は上告人から主張されたものであるが、被上告人において本件貸金債権に対する弁済として支払つた旨を主張した原判示(20)および(21)の弁済金合計三二〇万円については、当事者間にこれを本件貸金債権の弁済に充当する旨の合意または当事者の一方からこれをどの債権の弁済に充当するかについての指定がなされたことの立証がないとされたのであるから、原審が、上告人から主張された別口の三個の債権の存否、弁済の充当に関する前示特約および被上告人の上告人に対する弁済金の支払関係のすべてを斟酌し本件貸金請求の当否を決したのは正当であつて、その判断の過程に所論の違法はない。
論旨は独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

同第三点および上告人の上告理由について。

記録を調べても、所論のように、上告人が原審において本件各債権につき損害賠償額の予定の特約の存在を主張した形跡は認められない。論旨指摘の各準備書面の記載も右特約の存在を主張した趣旨に解することはできないし、所論のように、証拠上、右損害賠償額の予定の特約が存在することを窺わせるものが存在したからといつて直ちにその旨の主張があつたとすることはできず、右主張が存在しない以上、原審が右特約の存否について判断をしなかつたからといつて、所論判断遺脱の違法があるとはいえない。また、本件訴訟の経過に照らせば、原審が右特約の有無について釈明しなかつたからといつて釈明義務に違背した違法があるとはいえない。論旨はいずれも採用することができない。

上告代理人板井一治名義の上告理由第四点について。

金銭を目的とする消費貸借上の利息について利息制限法一条一項の利率の制限をこえる約定があるが、債務の不履行による賠償額の予定については約定がない場合においては、利息の額は右条項所定の制限額にまで減縮されるとともに、賠償額もおのずから右と同額にまで減縮され、その限度において支払を求めうるにとどまるものと解すべきことは、当裁判所昭和四〇年(オ)第九五九号、同四三年七月一七日大法廷判決の示すとおりであつて、これと同旨に出た原審の判断は正当である。
したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第五点について。

原判決の確定した事実関係のもとにおいては、上告人と被上告人とが連帯債務者となつて訴外E株式会社から借り受けた金六〇万円について、上告人が右六〇万円およびこれに対する日歩二〇銭の割合による約定利息を弁済したときは、上告人は被上告人に対し右元本六〇万円およびこれに対する借受けの日から弁済の日までの日歩二〇銭の割合による利息の償還をする旨の約定は、実質的には、上告人の責任で弁済することにより上告人と被上告人共同の免責をうべきものとされた借受元利金債務の存在を前提とし、連帯債務者間の内部関係において上告人がその全額を負担する旨の負担部分に関する約定にすぎないとする原審の判断は正当である。そして、金銭消費貸借上の利息の約定が利息制限法所定の制限利率をこえるときは、その超過部分に関しては右約定は無効であるから、上告人らは連帯債務者としてEに対しては右超過部分の利息債務を負担せず、したがつて、右超過部分に関しては被上告人には負担部分たるべきものも存在しなかつたものといわなければならない。
してみれば、上告人がEに対し前記利息制限法所定の制限を超過する利息金相当の金員を任意に支払つたからといつて、被上告人に対して右制限をこえる部分に相当する金員の求償を請求することは許されない筋合であつて、これと同旨に出た原判決の判断は正当である。
なお、上告人の弁済にかかる利息制限法一条所定の利率の制限をこえる部分の金員の支払が民法四四二条にいう「避クルコトヲ得サリシ費用其他ノ損害ノ賠償」にあたらないことはいうまでもない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官横田正俊の意見、同田中二郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

上告理由第一点に対する裁判官横田正俊の意見は、次のとおりである。
金銭を目的とする消費貸借上の債務者が、利息制限法所定の制限をこえる利息、損害金を任意に支払つたときは、その弁済は効力を生じ、債権者は右超過部分を適法に保有することができるものと解すべきであるが(その理由については、当裁判所昭和三五年(オ)第一一五一号、同三九年一一月一八日大法廷判決における私の反対意見を引用する。)、原審が確定した事実関係によれば、本件における利息、損害金の支払は、債務者である被上告人と債権者である上告人との間の原判決認定のごとき特約に基づいてなされたというのであるから、被上告人が単に任意にしたものと認めるのは相当でない。そして、そのような場合には、利息、損害金の約定は利息制限法超過部分については無効であり、したがつて、前示特約のうち弁済金を右超過部分に充当する旨の部分も無効と解すべきであるから、右超過部分に対する本件弁済は、前示特約の趣旨にしたがつて有効に存在する他の債務に順次充当されるものと解すべきであるとする多数意見の結論に私も賛成である。また、上告理由第一点のその他の所論に対する多数意見もすべて正当であるから、私はこれに同調する。

上告理由第四点に対する裁判官田中二郎の反対意見は、左のとおりである。
多数意見は、「金銭を目的とする消費貸借上の利息について利息制限法一条一項の利率の制限をこえる約定があるが、債務の不履行による賠償額の予定については約定がない場合においては、利息の額は右条項所定の制限額にまで減縮されるとともに、賠償額もおのずから右と同額にまで減縮され、その限度において支払を求めうるにとどまるものと解すべきことは、当裁判所昭和四〇年(オ)第九五九号、同四三年七月一七日大法廷判決の示すとおりであつて、これと同旨に出た原審の判断は正当である」としている。
しかし、私は、この多数意見には賛成することができない。その理由は、次のとおりである。
民法四一九条一項は、「金銭ヲ目的トスル債務ノ不履行ニ付テハ其損害賠償ノ額ハ法定利率ニ依リテ之ヲ定ム但約定利率カ法定利率ニ超ユルトキハ約定利率ニ依ル」旨を定めている。これは、当事者間の約定は、利息制限法その他強行法規に反しないかぎり、できるだけ、これを尊重することが債権法の原則であるからである。
ところで、当事者が利息の約定をする場合には、弁済期前の利息と弁済期後の不履行による損害賠償に該当するいわゆる遅延利息とを区別して定めることもあるが、そのような区別をすることなく、約定利息を定めることも少なくない。このように、弁済期の前後を区別することなく、利息制限法一条一項の利率の制限を超える約定がされている場合に、直ちに、債務の不履行による賠償額の予定(遅延利息)については約定がないと断定することには、少なからず疑問が感ぜられる。弁済期後の賠償額の予定について特に明示的に約定がされていない場合であつても、当事者としては、利息制限法の許す範囲内で、その約定利率による遅延利息を授受しようとする意思であつたと解するのが相当であり(貸主としてはもちろん、借主としても、それをやむを得ないところとして承認しているものということができる。)、この当事者の意思を尊重することこそ、さきに述べたように、債権法の原則に合するゆえんではないかと考える。すなわち、金銭を目的とする消費貸借上の債務に対する弁済期後の遅延利息については、利息制限法四条の賠償額予定に関する制限の範囲内において、約定利率による損害金の請求をすることが許されるものと解すべきで
ある。
よつて、上告理由第四点は、理由があり、原判決は、この点において破棄を免れないと考える。
なお、さきに私が同調した右大法廷判決に対する奥野裁判官の反対意見参照。

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官       横   田   正   俊
裁判官       田   中   二   郎
裁判官       下   村   三   郎
裁判官       松   本   正   雄
裁判官       飯   村   義   美

 

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