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最高裁平成21年4月14日第三小法廷判決・ 集民第230号353頁

2016-09-25

主文
原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由
上告代理人平光哲弥,同板谷淳一の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件本訴は,貸金業者である上告人が,借主である被上告人Y1及びその連帯保証人である被上告人Y2に対して貸金の返済を求めるものであり,本件反訴は,被上告人Y1が,弁済によって過払金が生じているとして,上告人に対してその返還を求めるものである。被上告人Y1が上記貸金の返済義務について期限の利益を喪失したか否か等が争われている。

2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律。以下,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2) 上告人は,平成11年6月11日,被上告人Y1に対し,480万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)。
ア利息年29.8%(年365日の日割計算)
イ遅延損害金年36.5%(年365日の日割計算)
ウ弁済方法平成11年7月から平成16年6月まで毎月5日限り,元金8万円ずつを経過利息と共に支払う。
エ特約元利金の支払を怠ったときは,通知催告なくして期限の利益を失い,債務全額及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う(以下「本件特約」という。)。
(3) 被上告人Y2は,平成11年6月11日,上告人に対し,本件貸付けに係る被上告人Y1の債務について連帯保証した。
(4) 被上告人Y1は,上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙利息制限法再計算シート(以下「本件計算書」という。)の「年月日」欄記載の各年月日に,「弁済額」欄記載の各金額を支払った。被上告人Y1は,約定の支払期日である平成13年1月5日に元利金の支払をしなかったところ,上告人は,同日経過後も,被上告人Y1に対し,残元利金の一括弁済を求めなかった。
(5) 上告人は,被上告人Y1から各弁済を受けた日の翌営業日に,被上告人Y1に対し,弁済金の受領年月日,受領金額,充当額,残債務額等が記載された領収書兼利用明細書を郵送した。

3 上告人は,①被上告人Y1は,平成13年1月5日に支払うべき元利金の支払を怠り,期限の利益を喪失した,②本件貸付けに係る債務の各弁済には,貸金業法43条1項又は3項の規定(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)が適用されるから,利息制限法1条1項又は同法4条1項(平成11年法律第155号による改正前のもの)に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超える部分の支払も有効な債務の弁済とみなされるなどと主張して,被上告人らに対し,本件貸付けの残元本205万6984円及び遅延損害金の支払を求めている(本訴請求)。
これに対して,被上告人Y1は,上告人は被上告人Y1に対して上記期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を与えたから,遅延損害金は発生しておらず,また,上告人において期限の利益の喪失を主張することは,信義則に違反し,権利の濫用として許されないなどと主張して,本件計算書記載のとおり,本件貸付けに係る各弁済金のうち同法1条1項所定の利息の制限額を超えて支払われた部分を元本に充当して計算し,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金102万3740円及び民法704条前段所定の利息の支払を求めている(反訴請求)。なお,被上告人らは,上告人が取引履歴を開示することなく本訴を提起したことは不法行為に当たると主張して,上告人に対して損害賠償金を反訴請求していたが,これを棄却すべきものとした原判決に対し,不服を申し立てなかった。

4 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,上告人の本訴請求を全部棄却すべきものとし,被上告人Y1の反訴請求のうち過払金返還請求を全部認容するとともに,民法704条前段所定の利息の請求を一部認容すべきものとした。
(1) 本件貸付けに係る債務の各弁済については,貸金業法43条1項の規定は適用されない。
(2) 被上告人Y1は,約定の支払期日である平成13年1月5日に元利金を一切支払わなかったので,本件特約により,同日の経過をもって期限の利益を喪失した。
(3) しかし,上告人は,その後も,被上告人Y1に対し,残元利金の一括支払を請求しておらず,本件計算書記載のとおり,被上告人Y1から,3年以上にわたり,回数にして100回,金額にして合計368万4466円の弁済を受けている。これを利息制限法1条1項所定の利率による利息及び元本に順次充当していくと,約定の最終弁済期より1年半以上前の平成14年10月には元本が完済され,以後過払金が発生していくことになる。そして,上告人は,元本完済後も約1年半にわたって被上告人Y からの弁済を1 受け続けていることになる。これらの事情を総合して考慮すると,上告人は,被上告人Y1に対し,平成13年1月5日の支払期日を経過したことによる期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を与えたものと解するのが相当である。
(4) 本件貸付けに係る債務の弁済金につき充当計算を行うに当たっては,上記期限の利益の喪失後も,利息制限法1条1項所定の利率により充当計算すべきところ,これによれば,本件計算書記載のとおり,過払金の額は合計102万3740円になる。

5 しかしながら,原審の上記4(1)及び(2)の判断は是認することができるが,同(3)及び(4)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。記録によれば,上告人は,上記期限の利益の喪失後は,本件貸付けに係る債務の弁済を受けるたびに,受領した金員を「利息」ではなく「損害金」へ充当した旨記載した領収書兼利用明細書を交付していたから,上告人に期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を付与する意思はなかったと主張していること(以下,この主張を「上告人の反対主張」という。),上告人は,これに沿う証拠として,上記期限の利益の喪失後に受領した金員の充当内容が記載された領収書兼利用明細書と題する書面を多数提出していること,これらの書面のうち,平成13年1月9日付けの書面及び受領金額が2737円と記載された同年2月6日付けの書面には,受領した金員を上記期限の利益を喪失した日までに発生した利息に充当した旨の記載がされているが,受領金額が8万6883円と記載された同日付けの書面及びこれより後の日付の各書面には,受領した金員を上記期限の利益を喪失した日の翌日以降に発生した損害金又は残元本に充当した旨の記載がされていること,この記載は,残元本全額に対する遅延損害金が発生していることを前提としたものであることが明らかである。
上告人が,上記期限の利益の喪失後は,被上告人Y1に対し,上記のような,期限の利益を喪失したことを前提とする記載がされた書面を交付していたとすれば,上告人が別途同書面の記載内容とは異なる内容の請求をしていたなどの特段の事情のない限り,上告人が同書面の記載内容と矛盾する宥恕や期限の利益の再度付与の意思表示をしたとは認められないというべきである。そして,上告人が残元利金の一括支払を請求していないなどの原審が指摘する上記4(3)の事情は,上記特段の事情に当たるものではない。
しかるに,原審は,上告人の反対主張について審理することなく,上告人が被上告人Y1に対し,上記期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を付与したと判断しているのであるから,この原審の判断には,審理不尽の結果,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,上記の点等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官藤田宙靖 裁判官堀籠幸男 裁判官那須弘平 裁判官田原睦夫 裁判官近藤崇晴)

 

 

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