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最高裁平成21年12月4日第二小法廷判決・集民第232号529頁

2016-08-29

主文
原判決中,不当利得返還請求に係る部分につき本件上告を棄却する。
その余の本件上告を却下する。
上告費用は上告人らの負担とする。

理由
上告代理人功刀正彦の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,上告人らが,貸金業者である被上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しているなどと主張して,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき過払金及び民法704条前段所定の利息の支払等を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人らは,金銭貸付業等を目的とする被上告人との間で,金銭消費貸借に係る基本契約をそれぞれ締結し,上告人X1は昭和58年11月24日から平成16年4月19日までの間,上告人X2は平成元年4月6日から平成15年12月30日までの間,被上告人から金銭を借り入れ,被上告人に対し弁済することを繰り返していた。
(2) 被上告人は,平成12年5月19日,東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)に対し,更生手続開始の申立てをした。当時,被上告人は,顧客との間の金銭消費貸借取引については,制限超過部分の支払があってもこれを元本に充当することをせず,約定利率による計算に基づいて残債権の額を算定する方法により債権の管理を行っていた。また,当時,被上告人には,上告人らを含め,約632万人のカード会員が存在していた。
(3) 東京地裁は,同日,保全管理命令を発するとともに,A弁護士を保全管理人に選任した。保全管理人は,カード会員の脱会を防止することを目的として,同年6月2日,東京地裁の許可を得た上で,新聞(全国紙3紙,地方紙3紙)に「ライフカードは,これまで通りお使いいただけます。」という見出しの社告(以下「本件社告」という。)を掲載した。
(4) 東京地裁は,同月30日午後5時,更生手続開始の決定(以下「本件決定」という。)をするとともに,A弁護士を管財人に選任し,更生債権の届出期間を同年8月15日までと定めた。
制限超過部分を元本に充当すると,本件決定当時,上告人らと被上告人間の各取引においてそれぞれ過払金が発生していたが,上告人らは,上記届出期間内に更生債権の届出をしなかった。なお,過払金返還請求権を更生債権として届出をした者は,2名であった。
債権調査の結果,更生担保権が約3010億円,優先的更生債権が約6億円,一般更生債権が約3206億円,劣後的更生債権が約2億円あることが確定した。
(5) 管財人は,営業資産が劣化すると会社の再建そのものが困難となるため,営業資産の劣化を防止するための対策を講じるとともに,スポンサーを早期に選定し,更生手続自体を早期に終結させることを目指し,その結果,平成12年10月12日には,被上告人とBとの間で,被上告人がBからの出資及び借入れ等により資金調達を行い,当該資金を原資として債権者への弁済に充てることなどを内容とするスポンサー契約が締結されるに至った。
(6) 平成13年1月31日,関係人集会において更生計画案が可決され,東京地裁は,更生計画認可の決定をし,同決定は,同年2月28日,確定した。
更生債権等の弁済資金は,①被上告人の手元資金,②Bからの株式払込金及び借入金,③被上告人の営業資産を信託銀行に信託し,信託財産を対象とする信託受益権を取得し,このうち優先受益権をいわゆる特別目的会社に譲渡し,同社から譲渡代金の支払を受ける手法(債権流動化の手法)により調達された資金によってねん出された。その結果,一般更生債権の弁済率は54.298%となった。
そして,同年3月末,更生担保権及び更生債権に対する一括弁済が行われ,同月29日,東京地裁は,更生手続終結の決定をした。
(7) 管財人又は被上告人(以下「管財人等」という。)は,被上告人の更生手続(以下「本件更生手続」という。)において,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることや,更生債権の届出をしないと被上告人が当該更生債権につきその責めを免れることにつき注意を促すような措置を講じなかった。

3 所論は,本件決定がされるまでに発生した上告人らの過払金返還請求権につき,被上告人において,上告人らが更生債権の届出期間内にその届出をしなかったことを理由として,その責めを免れる旨主張することが,信義則に反するとも,権利の濫用であるともいえないとした原審の判断には,法令違反があるというものである。

4(1) 前記事実関係によれば,管財人等は,本件更生手続において,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることや,更生債権の届出をしないと被上告人が当該更生債権につきその責めを免れることにつき注意を促すような措置を特に講じなかったというのである。
しかし,更生計画認可の決定があったときは,更生計画の定め又は法律の規定によって認められた権利を除き,更生会社がすべての更生債権につきその責めを免れるということ(以下「失権」という。)は,更生手続の根本原則であり,平成14年法律第154号による改正前の会社更生法(以下「旧会社更生法」という。)においては,更生会社の側において,届出がされていない更生債権があることを知っていた場合であっても,法律の規定によって認められた権利を除き,当該更生債権は失権するものとされており,また,更生債権者の側において,その責めに帰することができない事由により届出期間内に届出をすることができず,追完もできなかった更生債権についても,当然に失権するものとされていた。以上のような旧会社更生法の規定の内容等に照らすと,同法は,届出のない更生債権につき失権の例外を認めることが,更生計画に従った会社の再建に重大な影響を与えるものであることから,更生計画に定めのない債権についての失権効を確実なものとして,更生手続につき迅速かつ画一的な処理をすべきこととしたということができる。
そうすると,管財人等が,被上告人の顧客の中には,過払金返還請求権を有する者が多数いる可能性があることを認識し,あるいは容易に認識することができたか否かにかかわらず,本件更生手続において,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることや更生債権の届出をしないと失権することにつき注意を促すような措置を特に講じなかったからといって,被上告人による更生債権が失権したとの主張が許されないとすることは,旧会社更生法の予定するところではなく,これらの事情が存在したことをもって,被上告人による同主張が信義則に反するとか,権利の濫用に当たるということはできないというべきである。そして,このことは,過払金返還請求権の発生についての上告人らの認識如何によって左右されるものではない。
(2) 前記事実関係によれば,被上告人の保全管理人は,新聞紙上に「ライフカードは,これまで通りお使いいただけます。」という見出しで本件社告を掲載し,従前どおりの取引を継続するよう求めたというのであるが,本件社告は,カード会員の脱会を防止して会社再建を円滑に進めることを目的として行われたものであって,その目的が不当であったとはいえず,その内容も,顧客に対し更生債権の届出をしなくても失権することがないとの誤解を与えるようなものではなく,その届出を妨げるようなものであったと評価することもできない。そうすると,本件社告が掲載されたからといって,被上告人による失権の主張が信義則に反し,権利の濫用に当たるということはできない。
(3) さらに,前記事実関係によれば,約定利率により計算をした元利金の残債権額をもって顧客との間の金銭消費貸借取引を管理していた被上告人が,これを前提としてその評価がされた営業資産をもって,資金を調達することができたことや,過払金返還請求権を更生債権として届出する者がわずかであったということが,会社の早期再建に寄与したということはできるものの,このような事情があったからといって,上記の判断が左右されるものでもない。
そして,他に,被上告人による失権の主張が,信義則に反し,権利の濫用に当たると認められるような事情も見当たらない。
(4) 以上によれば,被上告人において,上告人らの過払金返還請求権が失権したと主張することが,信義則に反するとも,権利の濫用であるともいえない。これと同旨の原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。

5 上告人らは,不法行為に基づく損害賠償請求に関する部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官竹内行夫 裁判官今井功 裁判官中川了滋 裁判官古田佑紀)

 

 

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