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最高裁平成23年3月22日第三小法廷判決・集民第236号225頁(マルフク⇒ディック(CFJ))

2016-09-12

主 文

1 原判決中,「219万5139円及びうち52万5611円に対する平成14年5月18日から,うち166万9528円に対する平成21年2月8日か ら各支払済みまで年5分の割合による金員」を超え る金員の支払請求に関する部分を破棄する。
2 前項の部分及び上告人の民訴法260条2項の裁判 を求める申立てにつき,本件を名古屋高等裁判所に 差し戻す。
3 上告人のその余の上告を却下する。
4 前項の部分に関する上告費用は,上告人の負担とする。

理 由

上告人の上告受理申立て理由第2について
1 本件は,被上告人が,貸金業者であるA株式会社及び同社からその資産を譲り受けたB株式会社等を吸収合併しその権利義務を承継した上告人(以下,上告人及び合併に係る会社をその前後を問わず,単に「上告人」という。)との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分を元 本に充当すると過払金が発生していると主張して,上告人に対し,不当利得返還請 求権に基づき,その返還等を求める事案である。

2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,平成元年3月8日,Aとの間で,金銭消費貸借に係る基本契約を締結し,以後,継続的に金銭の貸付けと弁済が繰り返される取引を行った。
(2) Aは,平成14年1月29日,上告人との間で,同年2月28日午後1時を契約の実行(クロージング)の日時(以下「クロージング日」という。)として,Aの消費者ローン事業に係る貸金債権等の資産(以下「譲渡対象資産」という。)を一括して上告人に売却する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)を 締結した。
本件譲渡契約は,第1.3条において,上告人は,譲渡対象資産に含まれる契約 に基づき生ずる義務のすべて(クロージング日以降に発生し,かつ,クロージング日以降に開始する期間に関するものに限る。)を承継する旨を,第1.4条(a) において,上告人は,第9.6条(b)に反しないで,譲渡対象資産に含まれる貸金債権の発生原因たる金銭消費貸借契約上のAの義務又は債務(支払利息の返還請 求権を含む。)を承継しない旨を定め,第9.6条(b)においては,「買主は,超過利息の支払の返還請求のうち,クロージング日以後初めて書面により買主に対 して,または買主および売主に対して主張されたものについては,自らの単独の絶対的な裁量により,自ら費用および経費を負担して,これを防禦,解決または履行する。買主は,かかる請求に関して売主からの補償または負担を請求しない。」と 定める。
(3) 被上告人は,平成14年3月6日から同年5月17日まで,上告人に対し,被上告人とAとの間の金銭消費貸借取引に係る借入金の弁済を行った。
(4) 被上告人は,被上告人とAとの間の金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務(以下「本件債務」という。)は上告人に承継されると主張して,被上告人と上告人との間の別個の金銭消費貸借取引により生じた過払金と併せ,その返還等を求めている。

3 原審は,上記事実関係の下で,本件債務の承継の有無につき,次のとおり判断し,被上告人の請求を認容すべきものとした。
(1) 本件譲渡契約の第9.6条(b)は,借主とAとの間の金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務のうち,クロージング日後に初めて書面により上告人に対して履行を請求されたものについては,上告人においてこれを重畳的に引き受ける趣旨の定めである。本件債務は,クロージング日後に初めて書面により上告人に対して履行を請求されたものであるから,上記の条項により,その責任において解決すべきものとして,上告人がこれを重畳的に引き受け,承継したといえる。
(2) 仮にそうでないとしても,本件譲渡契約は,借主とAとの間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転をその内容とするのであり,被上告人がこれを黙示的に承諾したことにより,上告人がAの上記地位を包括的に承継するという法的効果が生じたといえる。上告人において,その承継する義務の範囲を争うことは許されない。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
前記事実関係によれば,本件譲渡契約は,第1.3条及び第1.4条(a)において,上告人は本件債務を承継しない旨を明確に定めるのであって,これらの条項と対照すれば,本件譲渡契約の第9.6条(b)が,上告人において第三者弁済をする場合における求償関係を定めるものであることは明らかであり,これが置かれていることをもって,上告人が本件債務を重畳的に引き受け,これを承継したと解することはできない。
そして,貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転すると解することはできないところ,上記のとおり,本件譲渡契約は,上告人が本件債務を 承継しない旨を明確に定めるのであって,これが,被上告人とAとの間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転を内容とするものと解する余地もない。

5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,原審における不服申立ての範囲である219万5139円及びうち52万5611円に対する平成14年5月18日から,うち166万9528円に対する平成21年2月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,上記破棄部分及び上告人の民訴法260条2項の裁判を求める申立てにつき,本件を原審に差し戻すこととする。
なお,上告人は,不服申立ての範囲を原審におけるものより拡張し,これを219万5139円及びこれに対する平成21年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分とする旨の「上告受理申立書」を当審に提出したが,当審において不服申立ての範囲を拡張することは許されない から,拡張部分に関する上告は却下すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁 判 長 裁 判 官 大 谷 剛 彦 裁 判 官 那 須 弘 平 裁 判 官 田 原 睦 夫 裁 判 官岡部喜代子)

 

 

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