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最高裁平成22年6月4日第二小法廷判決・集民第234号111頁(対ライフカード)

2016-09-22

主文
1(1) 原判決主文第2項のうち,「73万9751円」とあるのを「66万0477円」と更正する。
(2) 原判決19頁19行目の「9万2425円」とあるのを「1万3151円」と更正する。
2 原判決中,上告人敗訴部分のうち,「42万6510円及びうち41万3359円に対する平成15年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員」を超える金員の支払請求に関する部分を破棄し,同部分に係る第1審判決を取り消す。
3 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
4 上告人のその余の上告を却下する。
5 訴訟の総費用は,これを2分し,その1を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。

理由
上告代理人羽野島裕二ほかの上告受理申立て理由について

1 本件は,被上告人が,貸金業者である上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しているなどと主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき過払金,民法704条前段所定の利息(以下,単に「法定利息」という。)及び遅延損害金の支払を求める事案である。上告人は,被上告人において,上告人が更生手続開始の決定を受けるまでに発生した請求権につき更生債権の届出期間内にその届出をしていないから,平成14年法律第154号による改正前の会社更生法241条本文により,その責めを免れると主張し(以下,更生債権につきその責めを免れることを「失権」という。),被上告人は,上告人において,上記のような主張(以下「失権の主張」という。)をすることは,信義則に反し許されないと主張する。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,昭和58年10月8日,貸金業者である上告人との間でカード会員契約を締結し,上告人からライフカードの貸与を受けた。そして,被上告人は,平成元年5月9日から平成15年6月2日までの間,上記契約に基づき,第1審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に,「借入金額」欄記載の各金額を借り入れ,同「弁済額」欄記載の各金額を上告人に支払った(以下,この間の取引のことを「本件取引」という。)。上記契約は,制限超過部分を元本に充当することにより過払金が発生した場合には,これをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む。
(2) 上告人は,平成12年5月19日,東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)に対し,更生手続開始の申立てをした(以下,上告人の更生手続のことを「本件更生手続」という。)。上告人は,本件更生手続において,上告人の営業全体をスポンサーとなる企業に譲渡して弁済資金を調達することを予定しており,上記申立ては,約632万人の会員との間で締結していたカード会員契約を維持することを前提としてされたものであった。東京地裁は,同日,保全管理命令を発令したが,同命令においては,クレジットカードの使用によって上告人が負担する債務の弁済は裁判所の許可を要しないこととされた。
(3) 平成12年6月2日,新聞紙上に「ライフカードは,これまで通りお使いいただけます。」という見出しの社告(以下「本件社告」という。)が上告人名義で掲載されたが,上告人は,その際,過払金返還請求権について債権の届出をしないと失権することがある旨の説明をしなかった。
(4) 東京地裁は,平成12年6月30日,更生手続開始の決定(以下「本件決定」という。)をしたが,同決定において,融資の業務を行うために必要な日常取引については裁判所の許可を要しないこととされた。そして,本件決定の前後を通じ,上告人発行のライフカードの利用形態に格別の変化はなく,被上告人を含めた大多数の顧客は,上告人との間のカード会員契約に基づく取引を継続した。
(5) 本件決定当時,本件取引により過払金が発生していたが,上告人は,被上告人を更生債権者として債権者一覧表に記載せず,他方,被上告人も更生債権の届出をしなかった。なお,本件更生手続において,過払金返還請求権を更生債権として届出をした者は,2名であった。
(6) 更生計画においては,更生担保権については全額を弁済することとされたが,一般更生債権の最低弁済率は47.72%とされた。東京地裁は,平成13年1月31日,更生計画認可の決定をした。
(7) Aが上告人のスポンサーとなり,更生債権等の弁済のための資金を上告人に提供するなどし,その結果,一般更生債権の最低弁済率は,更生計画における想定を上回って,54.298%となった。平成13年3月には,更生担保権及び一般更生債権等に対する一括弁済がされ,同月29日,東京地裁は,更生手続終結の決定をした。
(8) 上記(1)の合意に基づき,本件取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当して計算すると,本件決定当時,43万0895円の過払金が発生しており,被上告人による弁済が最後に行われた平成15年6月2日当時,本件決定より後に行われた取引により41万3359円の過払金が発生していた。また,上記取引による過払金につき生じた法定利息の額は,第1審判決別紙2の「過払利息残額」欄記載のとおりとなる。

3 原審は,上記事実関係の下において,本件決定までに発生した過払金に係る不当利得返還請求につき,次のとおり判断し,被上告人の請求を一部認容した。
(1)ア新聞紙上に本件社告が上告人名義で掲載されたが,上告人は,その際,過払金返還請求権について債権の届出をしないと失権することがある旨を説明すべきであった。
イBは,平成16年6月4日,更生手続開始の決定を受け,Aが同社のスポンサーとなったが,その更生手続においては,上記決定前に発生した同社の顧客の過払金返還請求権につき,更生債権としての届出を必要とせず,更生計画認可の決定による失権の効果は及ばないなどの取扱いがされた。上告人の更生手続についても,Aがスポンサーとなって進められたことからすれば,上告人としては,上記取扱いが判明した後はこれと同様の取扱いをすべきであった。
ウ以上によれば,上告人において,失権の主張をすることは,信義則に反し許されない。
(2) 上告人は,被上告人に対し,本件決定当時発生していた過払金43万0895円の54.298%(本件更生手続における一般更生債権の最低弁済率)に相当する23万3967円及びこれに対する平成15年6月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 上告人が,本件更生手続において,顧客に対し,過払金返還請求権につき更生債権の届出をしないと失権するなどの説明をしなかったからといって,そのことをもって,上告人による失権の主張が信義則に反するということはできない(最高裁平成21年(受)第319号同年12月4日第二小法廷判決・裁判集民事232号登載予定参照)。そして,前記事実関係によれば,本件社告は,本件更生手続において,更生手続開始の申立てがされた後,更生手続開始の決定前にされたものであり,カード会員の脱会を防止して従前の営業を継続し,会社再建を阻害することなく進めることを目的として行われたものとみることができるのであって,その目的が不当であったとはいえない上,その内容も,顧客に対し更生債権の届出をしなくても失権することがないとの誤解を与えるようなものではなく,その届出を妨げるようなものであったと評価することもできない。そうであれば,本件社告が掲載された際に,上告人において,過払金返還請求権につき債権の届出をしないと失権するなどの説明をしなかったとしても,以上と別異に解する余地はない。
また,上告人と同様にAをスポンサーとして進められたBの更生手続において,更生手続開始の決定前に発生した過払金返還請求権につき,更生債権としての届出を必要とせず,更生計画認可の決定による失権の効果は及ばないなどの取扱いがされたとしても,異なる事情の下で進められた上告人の更生手続において,これと同じ取扱いがされなければならないと解する根拠はなく,上告人による失権の主張が信義則に反することになるものでもない。
そして,他に,上告人による失権の主張が,信義則に反すると認められるような事情も見当たらない。
(2) そうすると,上告人による失権の主張が信義則に反すると判断して,上告人が,被上告人に対し,本件決定当時発生していた過払金の54.298%に相当する23万3967円及びこれに対する遅延損害金を支払うべきであるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人敗訴部分のうち,本件決定より後に行われた取引により発生した過払金41万3359円と法定利息1万3151円の合計額である42万6510円及びうち41万3359円に対する平成15年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分は破棄を免れない。
そして,以上説示したところによれば,同部分に係る請求は理由がないから,第1審判決中,同請求に係る部分を取り消して,被上告人の請求を棄却すべきである。
上告人は,本件決定より後に行われた取引により発生した過払金に係る不当利得返還請求に関する部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
なお,原判決の説示に照らすと,原判決の理由中,平成15年6月2日当時存在していた法定利息の額を「9万2425円」とする部分は,「1万3151円」とすべきものであることが計算上明らかである。そうすると,原判決の主文及び理由に明白な誤りがあるから,職権により主文第1項のとおり更正する。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官千葉勝美裁判官竹内行夫裁判官須藤正彦)

 

 

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