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 最高裁 平成18年1月24日第三小法廷・集民第219号243頁

2016-12-20

主     文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
理     由
第1 事案の概要

1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む貸金業者であり,平成12年法律第112号による改正前の出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律(昭和58年法律第33号)附則(以下「出資法附則」という。)9項所定の業務の方法による貸金業のみを行う日賦貸金業者である。
(2)被上告人は,利息年109.5%,支払期日に約定の元本及び利息の支払を1回でも怠ったときは,当然に期限の利益を失い,直ちに残元本全部と利息,損害金を支払うとの条項(以下「本件期限の利益喪失条項」という。)を含む約定で,①~⑩のとおり,上告人A1に金銭を貸し付け,また,⑪~⑯のとおり,同上告人が代表者を務める上告人有限会社A2(以下「上告会社」という。)に金銭を貸し付けた(以下,これらの貸付けを,番号に従い,「本件①貸付け」などといい,「本件各貸付け」と総称する。)。本件②貸付けは,本件①貸付けの約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに契約が締結されたものであり,また,本件③~⑩貸付けについても,同様に,その直前の貸付けの約定の返済期間の途中で,貸増しが行われたものである。本件⑪~⑯貸付けについても,本件①~⑩貸付けと同じ方法で貸付けが行われたものである。
① 平成 8年 7月 1日  50万円
② 平成 8年10月24日  50万円
③ 平成 9年 1月29日  50万円
④ 平成 9年 5月28日  50万円
⑤ 平成 9年 9月 3日  50万円
⑥ 平成 9年12月 1日  50万円
⑦ 平成10年 2月28日  50万円
⑧ 平成10年 6月 3日  50万円
⑨ 平成10年 9月 2日  50万円
⑩ 平成10年12月24日  50万円
⑪ 平成11年 5月31日  50万円
⑫ 平成11年 9月14日  50万円
⑬ 平成11年12月29日  50万円
⑭ 平成12年 4月 7日  60万円
⑮ 平成12年 6月26日  60万円
⑯ 平成12年 9月22日  60万円
(3)被上告人は,上告人らに対し,本件各貸付けに際し,借用証書の写しをそれぞれ交付したところ,本件②~⑩,⑫,⑬貸付けの各借用証書には,「契約手渡金額」欄があり,同欄の下部には,「上記のとおり借用し本日この金員を受領しました。」との記載があるにもかかわらず,上記「契約手渡金額」欄には,上記各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付けの残元本の金額との合計金額が記載されていた。
(4)また,本件①~⑪貸付けにおいては,日曜日,第2土曜日,第3土曜日,国民の祝日,年末年始休暇(毎年12月31日から翌年1月5日までの6日間)及び夏期休暇(毎年8月13日から同月17日までの5日間)には,集金をしない旨の合意があったにもかかわらず(以下,集金をしない旨の合意のある日のことを「集金休日」という。),本件①~⑦貸付けの各借用証書には,集金休日の記載はなく,また,本件⑧~⑪貸付けの各借用証書には,日曜日,第2土曜日,第3土曜日,国民の祝日及び「その他取引をなさない慣習のある休日」を集金休日とする旨の記載がされていた。
(5)被上告人は,上告人A1から,平成10年12月24日,本件⑨貸付けの弁済として,3257円を受領したにもかかわらず,被上告人が同上告人に交付した同日付けの領収書には,受領金額が2303円と記載されていた。
(6)本件②貸付けについては,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに本件③貸付けに係る契約が締結され,本件②貸付けに係る債務が消滅したために,同債務については,返済期間が100日未満となったものであり,また,本件④~⑧,⑭,⑮貸付けについても,同様に,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たにその直後の貸付けに係る契約が締結され,旧債務が消滅したために,旧債務については,返済期間が100日未満となったものである。
(7)本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により取り立てる日数が,返済期間の全日数の100分の70以上と定められていたところ,実際の貸付けにおいては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったが,返済のされなかった日を除けば,返済期間の全日数の100分の70未満であった。
(8)上告人A1は,被上告人に対し,本件①~⑩貸付けの弁済として,第1審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に,「支払額」欄記載の各金銭を支払い,また,上告会社は,被上告人に対し,本件⑪~⑯貸付けの弁済として,同判決別紙3の「年月日」欄記載の各年月日に,「支払額」欄記載の各金銭を支払った(以下,これらの支払を「本件各弁済」と総称する。)。

2 本件は,上告人らが,被上告人に対し,本件各弁済のとおり支払われた利息等のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超える部分(以下「制限超過部分」という。)等を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を請求する事案である。

3 原審は,本件各弁済には貸金業法43条1項の規定が適用されるから,本件各貸付けの債務は残存しており,被上告人の不当利得返還債務は存在しないとして,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。

第2 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の2の点,第3の5及び6のうち貸金業法17条1項の解釈適用の誤りをいう点,第3の10の点について

1 原審は,次のとおり判断するなどして,本件各貸付けについては,貸金業法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面が交付されたものといえるとした。
(1)本件②~⑩,⑫,⑬貸付けの各借用証書の「契約手渡金額」欄には,各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付金の残元本の金額との合計金額が記載されているが,借用証書には,別途,従前の貸付けの残高が記載されているのであるから,これらの借用証書であっても,貸金業法17条1項3号の「貸付けの金額」の記載要件を充足する。
(2)本件⑪貸付けの借用証書には,夏期休暇の期間を集金休日とする旨の記載が欠けているが,上記期間を集金休日とすることについては,被上告人があらかじめ上告人A1に連絡をしており,また,同上告人も,かかる取扱いについて格別の異議を述べていなかったことなどに照らすと,上記期間は,上記借用証書において集金休日とされている「その他取引をなさない慣習のある休日」に該当するものであるから,この借用証書であっても,貸金業法17条1項所定の要件を具備した書面といえる。本件①~⑩貸付けの借用証書についても同様のことがいえる。
(3)被上告人が平成10年12月24日に本件⑨貸付けの弁済を受けた際に上告人A1に交付した同日付け領収書の受領金額の記載は誤りであるが,被上告人においてあえて虚偽の金額を記載したわけではなく,また,上記誤記は上告人A1に不利益を被らせるものでもなかったのであるから,この領収書であっても,貸金業法18条1項所定の要件を具備した書面といえる。

2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)貸金業法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,制限超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた貸金業法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守したときには,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める貸金業法の趣旨,目的と,同法に上記業務規制に違反した場合の罰則が設けられていること等にかんがみると,同法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものである
貸金業法43条1項の規定の適用要件として,貸金業者は同法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)を貸付けの相手方に交付しなければならないものとされており,また,貸金業者は同法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)を弁済をした者に交付しなければならないものとされているが,17条書面及び18条書面には同法17条1項及び18条1項所定の事項のすべてが記載されていることを要するものであり,それらの一部が記載されていないときは,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない(最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁,最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。
そして,貸金業法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,17条書面を交付すべき義務を定め,また,同法18条1項が,貸金業者につき,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに,18条書面を交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容や弁済の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容や弁済の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解される。したがって,17条書面及び18条書面の貸金業法17条1項及び18条1項所定の事項の記載内容が正確でないときや明確でないときにも,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。
(2)17条書面には「貸付けの金額」を記載しなければならないが(貸金業法17条1項3号),前記事実関係によれば,本件②~⑩,⑫,⑬貸付けの各借用証書には,「契約手渡金額」欄があり,同欄の下部には,「上記のとおり借用し本日この金員を受領しました。」との記載があるにもかかわらず,上記「契約手渡金額」欄には,上記各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付金の残元本の金額との合計金額が記載されていたというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は正確でないというべきである。そうすると,これらの借用証書の写しの交付をもって,本件②~⑩,⑫,⑬貸付けについて17条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,借用証書に別途従前の貸付けの債務の残高が記載されているとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(3)17条書面には「各回の返済期日及び返済金額」を記載しなければならないが(貸金業法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)13条1項1号チ),前記事実関係によれば,本件①~⑦貸付けの各借用証書においては,集金休日の記載がされていなかったというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は正確でなく,また,本件⑧~⑪貸付けの各借用証書においては,「その他取引をなさない慣習のある休日」を集金休日とする旨の記載がされていたというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は明確でないというべきである。
そうすると,これらの借用証書の写しの交付をもって,本件①~⑪貸付けについて17条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,これらの借用証書に記載されていない期日を集金休日とすることについて,被上告人があらかじめ上告人らに連絡しており,上告人らがかかる取扱いについて格別の異議を述べていなかったとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(4)18条書面には「受領金額及びその利息,賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額」を記載しなければならないが(貸金業法18条1項4号),前記事実関係によれば,被上告人が本件⑨貸付けの弁済を平成10年12月24日に受けた際に上告人A1に対して交付した同日付けの領収書においては,受領金額の記載が誤っていたというのであるから,この領収書の上記事項の記載内容は正確でないというべきである。そうすると,この領収書の交付をもって,本件⑨貸付けの平成10年12月24日の弁済について18条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,被上告人においてあえて虚偽の金額を記載したわけではなく,また,上記誤記が上告人A1に不利益を被らせるものでなかったとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

3 以上によれば,上記の諸点についての論旨はいずれも理由があり,原判決は破棄を免れない。

第3 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の12及び13のうち貸金業法17条1項の解釈適用の誤りをいう点について

後記第4の2(2)のとおり,本件期限の利益喪失条項のうち,上告人らが支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は無効であり,上告人らは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
しかしながら,前記のとおり,貸金業法17条1項が,貸金業者に17条書面の交付義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあるのであるから,同項及びその委任に基づき定められた施行規則13条1項は,飽くまでも当事者が合意した内容を正確に記載することを要求しているものと解するのが相当であり,このことは,当該合意が法律の解釈適用によって無効又は一部無効となる場合であっても左右されるものではないと解される。
そうすると,上告人らと被上告人が合意した期限の利益喪失条項の内容を正確に記載している本件各貸付けの各借用証書は,貸金業法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),施行規則13条1項1号ヌ(ただし,本件①~⑭貸付けについては,同号リ(平成12年総理府令・大蔵省令第25号による改正前のもの))所定の「期限の利益の喪失の定めがあるときは,その旨及びその内容」の記載に欠けるところはないというべきである。
論旨は採用することができない。

第4 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の12及び13のうち本件各弁済には任意性がないと主張する点について

1 原審の判断は,次のとおりである。
本件期限の利益喪失条項の存在により,上告人らが制限超過利息の支払を強制されているとは解されないし,「任意に」支払ったとは,本件各貸付けについての利息に充当されることを認識した上で,支払うか否かを自己の意思に基づいて判断することが可能なことをいうものであり,支払うこととした動機が上記条項の適用を免れるためであるか否かは,支払の任意性を左右するものではないから,本件各弁済は,任意にされたものといえる。

2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解されるものの(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照),前記のとおり,同項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものであるから,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,同項の規定の適用要件を欠くというべきである。
(2)本件期限の利益喪失条項がその文言どおりの効力を有するとすれば,上告人らは,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるが,このような結果は,上告人らに対し,期限の利益を喪失する不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができない。【要旨1】本件期限の利益喪失条項のうち,制限超過部分の利息の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,利息制限法1条1項の趣旨に反して無効であり,上告人らは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
そして,本件期限の利益喪失条項は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないものであるが,この条項の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本及び制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
したがって,【要旨2】本件期限の利益喪失条項の下で,債務者が,利息として,制限超過部分を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって支払ったものということはできないと解するのが相当である。
そうすると,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,上告人らが任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。

第5 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の4及び7の各点について

1 原審の判断は,次のとおりである。
(1)出資法附則9項2号所定の要件を具備するか否かは,契約締結時の契約内容によって判断されるべきであると解されるところ,本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたのであるから,上記要件を具備する。
(2)出資法附則9項3号所定の要件については,日賦貸金業者が貸付けの相手方の営業所等において自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めて,返済期間の全日数の100分の70以上であれば,具備すると解されるところ,本件各貸付けについては,いずれも,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったのであるから,上記要件を具備する。

2 しかしながら,原審の上記判断のうち,1の(2)の部分は是認することができるが,1の(1)の部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)出資法附則8項が,日賦貸金業者について出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律5条2,3項の特例を設け,一般の貸金業者よりも著しく高い利息について貸金業法43条1項の規定が適用されるものとした趣旨は,日賦貸金業者が,小規模の物品販売業者等の資金需要にこたえるものであり,100日以上の返済期間,毎日のように貸付けの相手方の営業所又は住所において集金する方法により少額の金銭を取り立てるという出資法附則9項所定の業務の方法による貸金業のみを行うものであるため,債権額に比して債権回収に必要な労力と費用が現実に極めて大きなものになるという格別の事情があるからであると考えられる。そうすると,日賦貸金業者について貸金業法43条1項の規定が適用されるためには,契約締結時の契約内容において出資法附則9項所定の各要件が充足されている必要があることはもとより,実際の貸付けにおいても上記各要件が現実に充足されている必要があると解するのが相当である。
(2)前記事実関係によれば,本件②貸付けについては,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに本件③貸付けに係る契約が締結され,本件②貸付けに係る債務が消滅したために,同債務については,返済期間が100日未満となったものであり,また,本件④~⑧,⑭,⑮貸付けについても,同様に,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たにその直後の貸付けに係る契約が締結され,旧債務が消滅したために,旧債務については,返済期間が100日未満となったというのである。そうすると,本件②,④~⑧,⑭,⑮貸付けについては,契約締結時の契約内容においては出資法附則9項2号所定の要件が充足されていたが,実際の貸付けにおいては上記要件が現実に充足されていなかったのであるから,貸金業法43条1項の規定の適用はない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
(3)これに対し,前記事実関係によれば,本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てる日数が,返済期間の全日数の100分の70以上と定められており,実際の貸付けにおいても,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったというのである。そして,出資法附則9項3号の文理に照らすと,日賦貸金業者が貸付けの相手方の営業所等において自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めて,返済期間の全日数の100分の70以上であれば,実際の貸付けにおいて同号所定の要件が現実に充足されているといえると解すべきである。そうすると,本件各貸付けについては,契約締結時の契約内容において出資法附則9項3号所定の要件が充足されていることはもとより,実際の貸付けにおいても上記要件が現実に充足されていたといえるのであるから,この点において貸金業法43条1項の規定の適用が否定されるものではない。これと同旨の原審の判断は是認することがで
きる。この点に関する論旨は採用することができない。

第6 結論
以上のとおりであるから,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,判示第4につき裁判官上田豊三の意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

判示第4についての裁判官上田豊三の意見は,次のとおりである。

私は,上告人らが本件各弁済を任意にしたものであるとする原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反はないと考える。その理由は次のとおりである。

1 利息制限法所定の制限利率を超える利息の支払約定は,その制限超過部分については無効であり,債務者が制限超過部分を含む約定どおりの利息を任意に支払った場合でも,制限超過部分は残元本に充当され,計算上元本が完済された後に支払われた金銭は原則として返還請求をすることができるというのが,かつて累次の最高裁判例によって確立された判例理論であった。
しかるに,昭和58年に貸金業法が制定され,上記判例理論が一部修正されることになった。すなわち,同法は,貸金業を営む者について登録制度を実施し,その事業に対し必要な規制を行うとともに,貸金業者の業務の適正な運営を確保し,もって資金需要者等の利益の保護を図り,国民経済の適切な運営に資することを目的として制定されたものであるが,同法43条1項は,貸金業者が厳格な業務規制である17条書面及び18条書面の交付義務を遵守することの見返りとして,任意に支払われた制限超過部分につき,有効な利息債務の弁済とみなし,制限超過部分に元本充当の効果を生じさせないこととし,その返還請求をすることができないものしたのである。

2 同法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によって支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)。
利息債務の弁済が強制執行や競売により実現される場合には,それは「債務者の意思による」支払とはいえないので,同法43条1項にいう任意性を否定すべきである。また,詐欺や強迫に基づいて利息債務の弁済が行われたり,あるいはその弁済が同法21条で禁止している債権者等の取立行為に起因する場合には,債務者の利息弁済の意思の形成には瑕疵があり,その弁済は債務者の「自由な」意思に基づく支払とはいえないので,同様に任意性を否定すべきである。
これに対し,約定の元本のほかに約定の利息(それには制限超過部分が含まれている。)を支払わなければ元本についての期限の利益を失うという,期限の利益喪失条項がある場合において,債務者が約定利息を支払っても,そのことだけでその支払の任意性が否定されるものではないと解するのが相当である。このような場合に債務者が約定利息を支払う動機には様々なものがあり,約束をしたのでそれを守るという場合もあるであろうし,あるいは約定利息を支払わなければ期限の利益を失い,残元本全額と経過利息を直ちに一括して支払わなければならなくなると認識し,そのような不利益を回避するためにやむなく支払うという場合もあろうと思われる。前者の場合には,およそ約定利息の支払に対する心理的強制を債務者に及ぼしているとはいい難い。これに対し,後者の場合には,約定利息の支払に対する心理的強制を債務者に及ぼしていることは否定することができない。しかし,このような心理的強制は,詐欺や強迫あるいは同法21条で禁止している債権者等の取立行為と同視することのできる程度の違法不当な心理的圧迫を債務者に加え,あるいは違法不当に支払を強要するものとは評価することができず,なお債務者の「自由な」意思に基づく支払というべきである。

3 多数意見は,上記の期限の利益喪失条項の下で債務者が制限超過部分を支払った場合には,特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって支払ったものということはできないと解するのであるが,そのように解することは,貸金業者が17条書面及び18条書面を交付する義務を遵守するほかに,「制限利息を超える約定利息につき,期限の利益喪失条項を締結していないこと」あるいは「元本及び制限利息の支払を怠った場合にのみ期限の利益を失う旨の条項を明記すること」という要件を,貸金業法43条1項のみなし弁済の規定を適用するための要件として要求するに等しい結果となり,同法の立法の趣旨を離れ,みなし弁済の範囲を狭くしすぎるのではないかと思われる。
さらに,そもそも,債務者が貸金業者との間に制限利息を超える約定利息の支払を約し,その約定利息につき期限の利益喪失条項のある契約を締結するのは,そうするほかには金融を得る途がないので万やむを得ないといった心理的強制にかられて締結していることが多いのではないかと思われる。そのような心理的強制にかられて締結した契約も,債務者の自己の自由な意思に基づくもの,すなわち任意性を否定することはできないものではないかと思われる。そうである以上,このような契約に基づく約定利息の支払についても,債務者の自己の自由な意思に基づくもの,すなわち任意性を否定することはできないものではないかと思われる。

4 本件において,上告人らが本件各弁済をしたのは,約定利息につき期限の利益喪失条項のある下でしたものではあるが,詐欺や強迫あるいは同法21条で禁止している取立行為に基づいてしたものであることをうかがわせる事情は認められないので,本件各弁済は,上告人らが約定利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってしたもの,すなわち上告人らが利息として任意に支払ったものというべきである。したがって,これと同旨の原審の判断は正当であり,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反はないと考える。

(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠
幸男)

 

 

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