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最高裁平成23年9月30日第二小法廷判決・集民第237号655頁

2016-09-26

主 文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理 由

上告代理人小林弘卓ほかの上告受理申立て理由第2について

1 本件は,上告人が,いずれも貸金業者である株式会社A(同社が合併により権利義務を承継した会社を含む。以下同じ。現商号株式会社B)及びその完全親会社である被上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,その返還等を求める事案である。上告人は,Aとの間の取引によって生じた過払金の返還に係る債務についても被上告人がこれを引き受けたなどと主張するのに対し,被上告人は,これを争っている。

2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1) 上告人は,Aとの間で,金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結し,これに基づき,平成5年7月6日から平成19年8月1日までの間,第1審判決別紙計算書1-①の番号1から103までの「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引を行った(以下,この取引を「本件取引1」という。)。本件取引1につき,制限超過部分を元本に充当すると,同日時点で過払金が発生していた。
(2) 被上告人は,グループ会社のうち,国内の消費者金融子会社の再編を目的として,平成19年6月18日,被上告人の完全子会社であったA外1社との間で上記再編に係る基本合意書を取り交わし,Aが顧客に対して有する貸金債権を被上告人に移行し,Aの貸金業を廃止することとした。
(3) 上記(2)の債権移行を実行するため,被上告人は,Aとの間で,平成19年6月18日,要旨次のとおりの業務提携契約(以下「本件業務提携契約」という。)を締結した。
ア Aの顧客のうち被上告人に債権を移行させることを勧誘する顧客は,被上告人及びAの協議により定めるものとし,そのうち希望する顧客との間で,被上告人が金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結する(以下,被上告人との間で上記基本契約を締結したAの顧客を「切替顧客」という。)。
イ Aが切替顧客に対して負担する利息返還債務,同債務に附帯して発生する経過利息の支払債務その他同社が切替顧客に対して負担する一切の債務(以下「過払金等返還債務」という。)について,被上告人及びAが連帯してその責めを負うものとし,この連帯債務の負担部分の割合は,被上告人が0割,Aが10割とする(以下,この定めを「本件債務引受条項」という。)。
ウ 被上告人及びAは,切替顧客に対し,今後の全ての紛争に関する申出窓口を被上告人とする旨を告知する(以下,この定めを「本件周知条項」という。)。被上告人は,切替顧客からの過払金等返還債務の請求に対しては,申出窓口の管理者として善良なる注意をもって対応する。
(4) 上告人は,本件取引1に係るAの債権の移行を求める被上告人の勧誘に応じて,平成19年8月1日,被上告人との間で金銭消費貸借取引に係る基本契約(以下「本件切替契約」という。)を締結した。この際,上告人は,被上告人から,被上告人グループの再編により,Aに対して負担する債務を被上告人からの借入れにより完済する切替えについて承諾すること,本件取引1に係る約定利息を前提とする残債務(以下「約定残債務」という。)が48万5676円であることを確認し,これを完済するため,同額をA名義の口座に振り込むことを被上告人に依頼すること,本件取引1に係る紛争等の窓口が今後被上告人となることに異議はないことなどが記載された「残高確認書兼振込代行申込書」(以下「本件申込書」という。)を示され,これに署名して被上告人に差し入れた。
(5) 本件申込書の差入れを受け,被上告人は,平成19年8月1日,上告人に対し,本件切替契約に基づき,本件取引1に係る約定残債務金額に相当する48万5676円を貸し付けた上,同額をA名義の口座に振込送金した(第1審判決別紙計算書1-①の番号104及び105の取引に当たる。)。そして,上告人は,被上告人に対し,同年9月2日から平成21年2月14日までの間,同計算書の番号106から123までの「弁済額」欄記載のとおりの弁済をした(以下,この弁済に係る取引を「本件取引2」という。)。
(6) 被上告人とAは,平成20年12月15日,本件業務提携契約のうち本件債務引受条項を変更し,過払金等返還債務につき,Aのみが負担し,被上告人は切替顧客に対し何らの債務及び責任を負わないことを内容とする契約(以下「本件変更契約」という。)を締結した。

3 原審は,上記事実関係の下において,被上告人が,Aの負担する過払金等返還債務を引き受けた上で,上告人との間で,本件取引1と一連のものとして本件取引2を行った旨の主張につき,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
本件債務引受条項は第三者のためにする契約の性質を有するところ,上告人が,被上告人に対し,本件取引1に係る紛争等の窓口が今後被上告人となることに異議はないなどの記載がされた本件申込書を差し入れ,被上告人との間で本件切替契約を締結した上,以後,被上告人に弁済をしたからといって,本件債務引受条項につき,上告人が受益の意思表示をしたものとはいえないから,本件取引1に係る過払金等返還債務を被上告人が引き受けたということはできない。そして,本件取引2は,被上告人からの借入金に対する弁済であって,制限超過部分を元本に充当しても過払金は生じない。

4 しかし,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
前記事実関係によれば,被上告人は,グループ会社のうち国内の消費者金融子会社の再編を目的として,被上告人の完全子会社であるAの貸金業を廃止し,これを被上告人に移行,集約するために本件業務提携契約を締結したのであって,上記の貸金業の移行,集約を実現し,円滑に進めるために,本件債務引受条項において,被上告人がAの顧客に対する過払金等返還債務を併存的に引き受けることが,また,本件周知条項において,Aの顧客である切替顧客に対し,当該切替顧客とAとの間の債権債務に関する紛争については,単に紛争の申出窓口になるにとどまらず,その処理についても被上告人が全て引き受けることとし,その旨を周知することが,それぞれ定められたものと解される。被上告人は,上記のような本件業務提携契約を前提として,Aの顧客であった上告人に対し,本件切替契約が被上告人のグループ会社の再編に伴うものであることや,本件取引1に係る紛争等の窓口が今後被上告人になることなどが記載された本件申込書を示して,被上告人との間で本件切替契約を締結することを勧誘しているのであるから,被上告人の意図は別にして,上記勧誘に当たって表示された被上告人の意思としては,これを合理的に解釈すれば,上告人が上記勧誘に応じた場合には,被上告人が,上告人とAとの間で生じた債権を全て承継し,債務を全て引き受けることをその内容とするものとみるのが相当である。
そして,上告人は,上記の意思を表示した被上告人の勧誘に応じ,本件申込書に署名して被上告人に差し入れているのであるから,上告人もまた,Aとの間で生じた債権債務を被上告人が全てそのまま承継し,又は引き受けることを前提に,上記勧誘に応じ,本件切替契約を締結したものと解するのが合理的である。
本件申込書には,Aに対して負担する債務を被上告人からの借入れにより完済する切替えについて承諾すること,本件取引1に係る約定残債務の額を確認し,これを完済するため,同額をA名義の口座に振り込むことを依頼することも記載されているが,本件申込書は,上記勧誘に応じて差し入れられたものであり,実際にも,上告人が被上告人から借入金を受領して,これをもって自らAに返済するという手続が執られることはなく,被上告人とその完全子会社であるAとの間で直接送金手続が行われたにすぎない上に,上記の記載を本件申込書の他の記載部分と対照してみるならば,上告人は,本件取引1に基づく約定残債務に係るAの債権を被上告人に承継させるための形式的な会計処理として,Aに対する約定残債務相当額を被上告人から借り入れ,その借入金をもって上記約定残債務相当額を弁済するという処理を行うことを承諾したにすぎないものと解される。
以上の事情に照らせば,上告人と被上告人とは,本件切替契約の締結に当たり,被上告人が,上告人との関係において,本件取引1に係る債権を承継するにとどまらず,債務についても全て引き受ける旨を合意したと解するのが相当であり,この債務には,過払金等返還債務も含まれていると解される。したがって,上告人が上記合意をしたことにより,論旨が指摘するような第三者のためにする契約の性質を有する本件債務引受条項について受益の意思表示もされていると解することができる。そして,被上告人が上告人と上記のとおり合意した以上,その後,被上告人とAとの間において本件変更契約が締結されたからといって,上記合意の効力が左右される余地はなく,また,上告人が,本件取引1に基づく約定残債務相当額を被上告人から借り入れ,その借入金をもって本件取引1に基づく約定残債務を完済するという会計処理は,Aから被上告人に対する貸金債権の承継を行うための形式的な会計処理にとどまるものというべきであるから,本件取引1と本件取引2とは一連のものとして過払金の額を計算すべきであることは明らかである。
したがって,被上告人は,上告人に対し,本件取引1と本件取引2とを一連のものとして制限超過部分を元本に充当した結果生ずる過払金につき,その返還に係る債務を負うというべきである。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,過払金の額等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官千葉勝美裁判官古田佑紀裁判官竹内行夫裁判官須藤正彦)

 

 

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