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最高裁平成22年4月20日第三小法廷判決・民集第64巻3号921頁(対CFJ)

2016-09-13

主 文

原判決中,上告人の敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理 由

上告代理人金高望ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

1 本件は,被上告人との間で締結した基本契約に基づき,継続的に金銭の借入れと弁済を繰り返した上告人が,各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の制限を超えて利息として支払われた部分(以下,この部分を「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生するとして,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金71万1523円の返還等を求める事案である。
本件では,取引が当初20万円の借入れから始まり,その後新たな借入れと弁済が繰り返されることにより借入残高に増減が生じたことから,このように借入残高が増減する取引における過払金の計算上,何をもって利息制限法1条1項にいう「元本」の額と解すべきかが争われている。

2 原審が確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,被上告人との間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結し,これに基づき,平成9年12月18日から平成19年12月3日までの間,原判決別紙計算書の「年月日」欄記載の各年月日に,「借入金額」欄記載の各金員を借り入れ,「弁済額」欄記載の各金員を支払った(以下「本件取引」という。)。
(2)本件基本契約において定められた利息の利率は,利息制限法1条1項所定の制限利率を超えるものであった。
(3)本件取引における弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものであった。
(4)本件取引開始当初の借入金額は20万円であり,その後も,各弁済金のうち利率を年1割8分として計算した金額を超えて利息として支払われた部分を本件基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算すると,各借入れの時点における残元本額(従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額)は,100万円未満の金額で推移し,平成17年12月6日の借入れの時点では,残元本額が10万円未満となった。

3 原審は,上記の事実関係の下で,次のとおり判断し,本件取引に適用される制限利率を平成17年12月5日までは年1割8分,同月6日以降は年2割であるとして,上告人の請求を過払金67万9654円の返還等を求める限度で認容した。
(1)基本契約に基づき継続的に借入れと弁済が繰り返される金銭消費貸借取引において,基本契約に定められた借入極度額は,当事者間で貸付金合計額の上限として合意された数値にすぎず,これをもって,利息制限法1条1項所定の「元本」の額と解する根拠はない。そして,上記の取引の過程で新たな借入れがされた場合,制限利率を決定する基準となる「元本」の額は,従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額をいい,従前の借入金残元本の額は,約定利率ではなく制限利率により弁済金の充当計算をした結果得られた額と解するのが相当である。
(2)本件取引においては,取引の開始から平成17年12月6日の借入れが行われる前までは,各借入れの時点における上記意味での元本の額は終始10万円以上100万円未満の金額で推移しており,その間の取引については,年1割8分の制限利率を適用すべきである。
(3)しかし,平成17年12月6日の借入れの時点では,上記意味での元本の額は10万円未満となるに至ったのであるから,同日以降の取引については,年2割の制限利率を適用するのが相当である。

4 しかしながら,原審の上記3の判断のうち,(1)及び(2)は是認することができるが,(3)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合には,各借入れの時点における従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項にいう「元本」の額に当たると解するのが相当であり,同契約における利息の約定は,その利息が上記の「元本」の額に応じて定まる同項所定の制限を超えるときは,その超過部分が無効となる。この場合,従前の借入金残元本の額は,有効に存在する利息の約定を前提に算定すべきことは明らかであって,弁済金のうち制限超過部分があるときは,これを上記基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算することになる。
そして,上記取引の過程で,ある借入れがされたことによって従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項所定の各区分における上限額を超えることになったとき,すなわち,上記の合計額が10万円未満から10万円以上に,あるいは100万円未満から100万円以上に増加したときは,上記取引に適用される制限利率が変更され,新たな制限を超える利息の約定が無効となるが,ある借入れの時点で上記の合計額が同項所定の各区分における下限額を下回るに至ったとしても,いったん無効となった利息の約定が有効になることはなく,上記取引に適用される制限利率が変更されることはない。
(2)これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件取引開始当初の借入金額は20万円であったというのであるから,この時点で本件取引に適用される制限利率は年1割8分となる。そして,各弁済金のうち制限超過部分を本件基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算すると,その後,各借入れの時点における従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額は100万円未満の金額で推移し,平成17年12月6日の借入れの時点に,上記の合計額が10万円未満となったというのであるが,これが10万円未満に減少したからといって,適用される制限利率が年2割に変更されることはない。
そうすると,同日以降の取引に年2割の制限利率を適用するのが相当であるとした原審の判断には,利息制限法1条1項の解釈適用の誤りがあり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨のうち,この趣旨をいう部分は理由がある。

5 以上によれば,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れず,上記の見地に立って過払金額を確定させるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官那須弘平 裁判官藤田宙靖 裁判官堀籠幸男 裁判官田原睦夫 裁判官近藤崇晴)

 

 

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