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最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決・民集第57巻7号895頁(対ロプロ)

2016-12-14

主     文

1 平成13年 (受)第1032号上告人の上告を棄却する。
2 原判決中,平成13年(受)第1033号上告人らの敗訴部分を破棄し,同部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
3 第1項に関する上告費用は,平成13年(受)第1032号上告人の負担とする。

 

理     由

第1 事案の概要

1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。
(1) 株式会社D技研(以下「D技研」という。)は,中小企業等への金員の貸付けを業とする平成13年(受)第1032号上告人・同第1033号被上告人(以下「1審被告」という。)との間で,平成5年6月11日付けの手形貸付取引約定及び同月14日付けの基本取引約定により,次の内容の継続的貸付契約(以下「本件貸付契約」という。)を締結した。
ア 元本極度額 3000万円
イ 特約 D技研振出しの手形が不渡りとなったときは,D技研は,1審被告に 対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失する。
(2) 平成13年(受)第1032号被上告人・同第1033号上告人A1(以下「1審原告A1」という。)は平成9年8月5日,同A2(以下「1審原告A2」という。)は平成6年6月21日,1審被告に対し,D技研の1審被告に対する本件貸付契約に基づく債務について,それぞれ400万円の限度で連帯保証した。
(3) 1審被告は,本件貸付契約に基づき,D技研に対し,平成5年6月11日から平成10年3月24日までの間,手形貸付けの方法で,第1審判決別紙1記載のとおり,利息制限法(以下「法」という。)1条1項所定の制限利率を超える利率で反復継続して金員を貸し付け,返済を受けた(以下,上記一連の取引を「本件取引」という。)。
なお,同別紙に記載した「借入日」の「返済額」には,貸付額から天引きされた同別紙記載の1審被告に対する利息,調査料及び取立料とE保証株式会社(以下「E保証」という。)に対する保証料及び事務手数料(以下「保証料等」という。)との合計額が計上されている。
(4) 1審被告の受ける調査料及び取立料は,法3条所定のみなし利息に当たる(以下,利息とみなし利息を合わせて「利息等」という。)。
(5) 平成10年3月末,D技研振出しの手形が不渡りとなった。
(6) 1審原告A1は,1審被告に対し,上記連帯保証債務の履行として,平成10年4月9日及び同月17日に各200万円を支払った。
(7) 1審原告A2は,1審被告に対し,上記連帯保証債務の履行として,平成10年4月10日,同月14日,同月23日及び同月28日に各50万円,同年5月7日に200万円を支払った。
(8) E保証は,1審被告の貸付金取引の借主に対する信用保証を行うために,1審被告が100%出資して平成3年5月に設立した子会社であり,E保証の利益は,最終的には1審被告に帰属するということができる。E保証は,1審被告の貸付けに限って保証しており,1審被告から手形貸付けを受ける場合,E保証の保証を付けることが条件とされている。E保証の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて非常に高く,E保証の設立後,1審被告は貸付利率の引下げ等を行ったが,E保証の受ける保証料等の割合と1審被告の受ける利息等の割合との合計はE保証を設立する以前に1審被告が受けていた利息等の割合とほぼ同程度であった。E保証は,1審被告の借主との間の保証委託契約の締結業務及び保証料徴収業務を1審被告に委託しており,信用調査業務についても1審被告に任せ,保証の可否の決定業務をも事実上1審被告に委託していた。
また,信用保証会社が貸付金取引の借主の債務を保証する主たる目的は,借主が返済を怠った場合,信用保証会社が貸主に対して代位弁済を行い,借主に対して求償金の回収業務を行うことにあるにもかかわらず,E保証については,債権回収業務も1審被告が相当程度代行していた。E保証は,その組織自体がこのような各業務を自ら行う体制にはなっていなかった。

2 本件は,1審原告らが,1審被告に対し,本件取引につき法所定の制限を超える利息等として支払われた部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求める事案である。

第2 平成13年(受)第1032号上告代理人滝田裕,同川戸淳一郎の上告受理申立て理由について

【要旨1】1審被告の受ける利息等とE保証の受ける保証料等の合計額が法所定の制限利率により計算した利息の額を超えていること,前記第1の1(8)記載のE保証の設立経緯,保証料等の割合,業務の内容及び実態並びにその組織の体制等によれば,1審被告は,法を潜脱し,100%子会社であるE保証に保証料等を取得させ,最終的には同社から受ける株式への配当等を通じて保証料等を自らに還流させる目的で,借主をしてE保証に対する保証委託をさせていたということができるから,E保証の受ける保証料等は,法3条所定のみなし利息に当たるというべきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

第3 平成13年(受)第1033号上告代理人松山満芳の上告受理申立て理由
について

1 原審は,1審被告とD技研は,基本取引約定及び手形貸付取引約定を取り交わし,これに基づく複数の貸付金取引を並行して行っていたのであるから,D技研がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を支払い,この制限超過部分を元本に充当した結果生じた過払金については,1審被告の貸主としての期限の利益を保護した上で他の借入金債務に充当するとすることが,1審被告とD技研の意思であると合理的に推認され,1審被告は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができると判断した。

2 しかしながら,原審の上記判断のうち,過払金が他の借入金債務に充当されるとの判断は是認することができるが,この場合に1審被告が充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができるとの判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けとその返済が繰り返される金銭消費貸借取引においては,借主は,借入れ総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられることから,弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果当該借入金債務が完済され,これに対する弁済の指定が無意味となる場合には,特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に対する弁済を指定したものと推認することができる。
また,法1条1項及び2条の規定は,金銭消費貸借上の貸主には,借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とする法所定の制限内の利息の取得のみを認め,上記各規定が適用される限りにおいては,民法136条2項ただし書の規定の適用を排除する趣旨と解すべきであるから,過払金が充当される他の借入金債務についての貸主の期限の利益は保護されるものではなく,充当されるべき元本に対する期限までの利息の発生を認めることはできないというべきである。
したがって,【要旨2】同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である。
そうすると,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決中1審原告らの敗訴部分は破棄を免れない。論旨は理由がある。

第4 結論

以上のとおりであるから,1審被告の上告は,これを棄却することとし,1審原告らの上告に基づいて,原判決中1審原告らの敗訴部分を破棄し,同部分につき,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷 玄)

 

 

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