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最高裁平成24年(受)539号平成24年6月29日第二小法廷判決

2016-09-23

主 文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人二見敏夫,同栫亮太,同山田晃義の上告受理申立て理由について

1 本件は,上告人が,いずれも貸金業者である株式会社A(同社が合併により権利義務を承継した会社を含む。以下同じ。その後,株式会社B,株式会社Cと順次商号変更した。)及びその完全親会社である被上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引における弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しているとして,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,上記過払金の返還等を求める事案である。上告人は,Aが被上告人に対して上告人とAとの間の金銭消費貸借取引における約定利息を前提とする残債権(以下「約定残債権」という。)を譲渡したことにより,被上告人が上記金銭消費貸借取引により発生した過払金の返還に係る債務を承継したなどと主張するのに対し,被上告人は,これを争っている。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1)上告人は,Aとの間で,金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結し,これに基づき,平成6年4月15日から平成19年9月17日まで,第1審判決別紙「利息制限法による計算書」の番号1から266までの「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,継続的な金銭消費貸借取引を行った(以下,この取引を「第1取引」という。)。第1取引につき,制限超過部分を元本に充当すると,同日時点で過払金が発生していた。

(2)被上告人は,グループ会社のうち,国内の消費者金融子会社の再編を目的として,平成19年6月18日,被上告人の完全子会社であったA外1社との間で上記再編に係る基本合意書を取り交わし,Aが顧客に対して有する貸金債権を被上告人に移行し,Aの貸金業を廃止することとした。この債権移行の実行のため,被上告人は,Aとの間で,同日,業務提携契約(以下「本件業務提携契約」という。)を締結し,その中で,Aの顧客のうち被上告人への債権移行を勧誘する顧客は,被上告人及びAの協議により定めるものとし,そのうち希望する顧客との間で,被上告人が金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結することなどを定めたが,上告人は,被上告人との間で,上記基本契約を締結することはなかった。

(3)被上告人は,Aとの間で,平成19年10月16日,Aが有する貸付債権のうち,被上告人との間で上記の基本契約を締結していない顧客に係る貸付債権であって別途特定するものをAから譲り受ける旨の合意をした(以下,この合意を「本件債権譲渡基本契約」という。)。
本件債権譲渡基本契約には,Aが譲渡債権に係る顧客に対して負担する利息返還債務,同債務に附帯して発生する経過利息の支払債務その他Aが上記顧客に対して負担する一切の債務(以下「過払金等返還債務」という。)については,被上告人が併存的に引き受ける旨の条項(以下「本件債務引受条項」という。)がある。しかし,本件債権譲渡基本契約には,譲渡債権に係るAの貸主としての地位自体を被上告人に移転する旨又はAの負担する過払金等返還債務が当然に被上告人に承継される旨を定めた条項はない。

(4)被上告人は,Aとの間で,本件債権譲渡基本契約に基づき,平成19年10月17日をもって第1取引における約定残債権をAから譲り受ける旨の合意をした(以下,この合意を「本件譲渡」という。)。
被上告人から本件譲渡に係る通知を受けた上告人は,被上告人に対し,平成19年11月6日から平成20年11月2日まで,第1審判決別紙「利息制限法による計算書」の番号267から279までの「弁済額」欄記載のとおりの弁済をするとともに,同日,被上告人との間で,新たに金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結した。この基本契約は,上告人と被上告人との上記弁済に係る取引により過払金が発生していれば,当該過払金を同基本契約に基づく取引に係る借入金債務に充当する旨の合意を含むものであった。そして,上告人と被上告人とは,同基本契約に基づき,同日から平成21年2月13日まで,上記別紙の番号280から286までの「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおりの取引をした(以下,本件譲渡後の上告人と被上告人との取引を「第2取引」という。)。

(5)被上告人とAとは,平成20年12月15日,本件債権譲渡基本契約のうち本件債務引受条項を変更し,過払金等返還債務につき,Aのみが負担し,被上告人は譲渡債権に係る顧客に対し何らの債務及び責任を負わないことを内容とする契約(以下「本件変更契約」という。)を締結した。

3 原審は,上記事実関係の下において,被上告人は,本件債権譲渡基本契約及びこれに基づく本件譲渡により第1取引によって発生した過払金等返還債務を承継するものではないと判断し,上告人の請求を第2取引のみによって発生した過払金15万5000円及び民法704条前段所定の利息の支払を求める限度で認容した。

4 所論は,被上告人は,本件債権譲渡基本契約及びこれに基づく本件譲渡により,第1取引によって発生した過払金等返還債務を承継したものであり,これを否定することは信義則に反するというものである。

貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転するものではなく,また,譲受業者が上記金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務を当然に承継するものでもない(最高裁平成22年(受)第1238号,同年(オ)第1187号同23年3月22日第三小法廷判決・裁判集民事236号225頁,最高裁平成22年(受)第1405号同23年7月8日第二小法廷判決・裁判集民事237号159頁等)。前記事実関係によれば,本件譲渡は,Aから被上告人への債権譲渡について包括的に定めた本件債権譲渡基本契約に基づくものであるところ,同基本契約には,契約上の地位の移転や過払金等返還債務の当然承継を定める条項はないというのであるから,本件譲渡により,直ちに,被上告人が,第1取引に係る契約上の地位の移転を受け,又は第1取引に係る過払金等返還債務を承継したということはできない。
また,前記事実関係によれば,本件債権譲渡基本契約中の本件債務引受条項は,譲渡債権に係るAの顧客を第三者とする第三者のためにする契約の性質を有するところ,本件変更契約の締結時までに,上告人は,被上告人に対し,本件譲渡に係る通知に従い弁済をした以外には,第1取引に係る約定残債権につき特段の行為をしておらず,上記弁済をしたことをもって,本件債務引受条項に係る受益の意思表示をしたものとみる余地はない。そうすると,本件債務引受条項は,上告人が受益の意思表示をする前にその効力を失ったこととなり,被上告人が本件債務引受条項に基づき上記過払金等返還債務を引き受けたということはできない。最高裁平成23年(受)第516号同年9月30日第二小法廷判決・裁判集民事237号655頁は,被上告人が,本件業務提携契約を前提としてその完全子会社の顧客に対し被上告人との間で金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結することを勧誘するに当たって,顧客と上記完全子会社との間に生じた債権を全て承継し,債務を全て引き受ける旨の意思表示をしたものと解するのが合理的であり,顧客も上記の債権債務を被上告人において全てそのまま承継し,又は引き受けることを前提に,上記勧誘に応ずる旨の意思表示をしたものと解される場合につき判断したものであり,上告人の意思を考慮することなくAと被上告人との間で本件譲渡がされたにすぎない本件とは,事案を異にすることが明らかである。
以上によれば,被上告人は,本件債権譲渡基本契約及びこれに基づく本件譲渡により,第1取引によって発生した過払金等返還債務を承継したとはいえない。また,前記事実関係によれば,被上告人において上記過払金等返還債務の承継を否定することが信義則に反するともいえない。

6 以上と同旨の原審の上記判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 裁判官
小貫芳信)

 

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