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最高裁平成18年1月19日第一小法廷判決・集民第219号31頁(対シティズ)

2016-09-05

主     文

原判決を破棄する。
本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理     由

上告代理人板根富規,同青木貴央の上告受理申立て理由第2の3について

1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。

(2) 被上告人は,平成7年5月23日,Dに対し,300万円を,次の約定で貸し付け(以下「旧貸付け」という。),上告人は,同日,被上告人に対し,Dの旧貸付けに係る債務について連帯保証をした。
ア 利息 年29.80%(年365日の日割計算)
イ 遅延損害金 年39.80%(年365日の日割計算)
ウ 返済方法 平成7年6月から平成12年5月まで毎月27日に60回にわたって元金5万円ずつを経過利息と共に支払う。
エ 特約 Dは,元金又は利息の支払を遅滞したときには,当然に期限の利益を失い,被上告人に対して直ちに元利金を一時に支払う(以下「本件期限の利益喪失特約」という。)。

(3) 被上告人は,旧貸付けに係る契約を締結した際に,Dに対し,平成7年5月23日付け金銭消費貸借契約証書,同日付け貸付契約説明書及び償還表を交付した。
上記金銭消費貸借契約証書及び貸付契約説明書(以下「旧契約書等」という。)には,利息の利率を利息制限法1条1項所定の制限利率を超える年29.80%とする約定が記載された後に,本件期限の利益喪失特約につき,「元金又は利息の支払を遅滞したとき(中略)は催告の手続きを要せずして期限の利益を失いただちに元利金を一時に支払います。」と記載され,期限後に支払うべき遅延損害金の利率を同法4条1項所定の制限利率を超える年39.80%とする約定が記載されていた。

(4) Dは,被上告人に対し,旧貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙原告側元利金計算書(2)の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を弁済し,被上告人は,Dに対し,弁済の都度,「領収書兼利用明細書」と題する書面を交付した。

(5) 被上告人は,平成10年2月20日,Dに対し,340万円を,返済方法を平成10年3月から平成15年2月まで毎月27日に60回にわたって元金5万6000円ずつ(最終回は9万6000円)を経過利息と共に支払うものとするほかは,本件期限の利益喪失特約を含めて旧貸付けと同じ約定で貸し付け(以下「本件貸付け」という。),上告人は,同日,被上告人に対し,Dの本件貸付けに係る債務について連帯保証をした。

(6) 被上告人は,本件貸付けに係る契約を締結した際に,Dに対し,平成10年2月20日付け金銭消費貸借契約証書,同日付け貸付契約説明書及び償還表を交付した。
上記金銭消費貸借契約証書及び貸付契約説明書(以下「本件契約書等」という。)には,旧契約書等に記載された前記(3)の約定と同旨の約定が記載されていた。

(7) Dは,平成10年2月20日,被上告人から交付を受けた本件貸付金340万円の中から,被上告人に対し,前記(4)の各弁済のうち利息制限法1条1項所定の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超えて利息として支払った部分につき法43条1項の規定の適用があることを前提に計算された旧貸付けに係る残債務の弁済として,合計141万2640円を支払った。被上告人は,この支-
払によって,旧貸付けに係る債務が完済されたものと取り扱っている。

(8) Dは,被上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙原告側元利金計算書(1)の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を弁済し(以下,これらの弁済と前記(4),(7)記載の各弁済とを併せて「本件各弁済」と総称する。),被上告人は,Dに対し,弁済の都度,「領収書兼利用明細書」と題する書面を交付した。

(9) Dは,平成10年9月28日に支払うべき元利金の支払を怠り,期限の利益を喪失した。

2 本件は,被上告人が,本件各弁済のうち利息の制限額を超えて利息として支払った部分について,法43条1項の規定が適用されるから,有効な利息の債務の弁済とみなされると主張して,上告人に対し,連帯保証債務履行請求権に基づき,本件貸付けの残元本233万5954円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

3 原審は,次のとおり判断し,本件各弁済のうち利息の制限額を超えて利息として支払った部分については法43条1項の規定が適用されるとして,被上告人の請求を全部認容すべきものとした。
期限の利益喪失特約は,債務者に対して約定どおりの債務の履行を促す効果を有するものであるが,同特約が公序良俗に反するなど著しく不当なものでない限り,同特約の存在とその適用による不利益の警告は,債務者に対する違法不当な圧力とはいえず,弁済の任意性に影響を及ぼさないというべきである。本件期限の利益喪失特約は,公序良俗に反するなど著しく不当なものには至らないから,その存在を理由に本件各弁済の任意性を否定することはできない。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,その超過部分(以下「制限超過部分」という。)につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,その支払が任意に行われた場合に限って,例外的に利息制限法1条1項の規定にかかわらず,制限超過部分の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めたものであるこのような法43条1項の規定の趣旨にかんがみると,同項の適用に当たっては,制限超過部分の支払の任意性の要件は,明確に認められることが必要である。法21条1項に規定された行為は,貸金業者として最低限度行ってはならない態様の取立て行為を罰則により禁止したものであって,貸金業者が同項に違反していないからといって,それだけで直ちに債務者がした制限超過部分の支払の任意性が認められるものではない
そうすると,法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)が,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。そして,債務者が制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったか否かは,金銭消費貸借契約証書や貸付契約説明書の文言,契約締結及び督促の際の貸金業者の債務者に対する説明内容などの具体的事情に基づき,総合的に判断されるべきである。

(2) ところで,本件期限の利益喪失特約がその文言どおりの効力を有するとすると,Dは,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになる上,残元本全額に対して年39.80%の割合による遅延損害金を支払うべき義務も負うことになる。しかし,このような結果は,Dに対し,期限の利益を喪失する等の不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができず,【要旨1】本件期限の利益喪失特約のうち,Dが支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同項の趣旨に反して無効であり,Dは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
そして,本件期限の利益喪失特約は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれども,旧契約書等及び本件契約書等における本件期限の利益喪失特約の文言は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する年39.80%の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
したがって,【要旨2】本件期限の利益喪失特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできない。
そうすると,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,Dが任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

5 以上によれば,論旨は理由があり,上告理由について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉 徳治 裁判官 島
田仁郎 裁判官 才口千晴)

 

 

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